シエルへ最後のお願い。
(マハイル視点)
「イグ帰り遅いわね。」
イグが仕事に出かけてから2時間が過ぎようとしていた。
明日にはイグも私の家を出て行く、その為今日はお別れ会としてご馳走を準備している。
今日のメニューは
とれたて野菜で作ったフレッシュサラダに、生米を粉末状にした焼きたてもっちりぱん。
それからクライツ総副団長が狩って来てくれたシカ肉で作ったローストビーフにイグが初めて家に来てくれた時にも出した、ビーフシチューにした。
良くここまで作ったと自分を褒めてあげたいわ。
テーブルの上に並んだご馳走を見てシエルも目を輝かして喜んでいる。
食事の準備が完了して、もう10分が過ぎた。
イグの言い様からして、そんなに遅くならいと思っていたので先に食事の準備を進めたのは失敗だったかもしれないわ、
料理が冷めて来た。
夕食までには戻るはずなので遅くても、あと数分で戻るはずだけど、、、
折角作った料理が冷めちゃダメだし、シエルもお腹を空かせてると思うし、、
イグには悪いけど先に食べる事にしようかしら?
「シエル、料理が冷めちゃうし、先にご飯食べちゃおうか?」
「ううん、おとうさん、まつ」
「でも、イグいつ帰ってくるか分からないわよ」
「、、、、まつ」
そうか、、やっぱり最後は一緒にご飯を食べたいのよね。
なら私もイグを待つ事にしよう
「そう、ならイグが帰ってくるまで、絵本読んであげるからお膝の上にいらっしゃい、、」
「やった~」
膝の上にシエルを乗せ絵本を読み始める。
久々にシエルに本を読んであげる気がするわ、イグがここに来てからは本の読み聞かせを任せきりだったわね。
明日からは私がまた本を読み聞かせるのね、、
そのうち、自分自身で本を読み始めて私が読み聞かせしないで済む様になるんだろうし、、
この子、頭いいからすぐに字を読む様になりそうだわ、今でも簡単な単語なら少しは読めるもの、、
本だけじゃなく、今後は一人で出来る事もどんどん増えていくんだろうな、、
そうなったら、
楽にはなるけど、やっぱり寂しいわ、
シエルを生んでからもうすぐで3年になるわ。
子供の成長は速いと言うけどここまで速いとは、、、
私は少し未来の事を考え楽しみまじりに微笑む
「まま、、なんでわらってるの?」
「え、私笑っていた?」
「うん、、にこにこ、、、こうだったよ、、、」
シエルが笑顔をこちらに見せてくれた。
私のマネだろう、、太陽よりも眩しい笑顔、、、
かわいい、、娘が可愛すぎて、、、つらいわ、、、
「シエル~♪可愛い、もっと笑って、、、」
「いいよ、、えへへ、、」
シエルは私にさらに笑顔を見せてくれた、、
贔屓目なしにしても、笑顔がここまで可愛い子はいないわ、
大きくなったら、この子モテるんだろうな、、、
自慢でもないが私も、結構モテる方だったのでこの子も恋愛系は苦労するだろなぁ、、
変な虫が付かない様に注意をしないといけないわね、、、
「今日はこの本を読みましょう。」
「しえる、これすき、はなしおぼえたよ。」
「ほんと。すごいわね。」
久々の娘との二人っきりの時間を堪能した。
本を読み始めて15分程が経過した頃、
玄関のドアの方から「コンっコンっ」とドアを叩く音が聞こえた。
時間的におそらくイグが帰って来たのだろう、、
読みかけの本を折り畳み、机に置く。
シエルも膝から床に降ろし玄関に向かう、
玄関のドアを開けると三人の男性が立っていた、
三人とも見覚えがない、、服装からして騎士団の兵士でもなさそうだね、、
嫌な予感がする、、、
「あの、、、どちら様で?」
「ここにシエル=ヴァインスはいるか?」
シエル=ヴァインス、、、
なぜ、シエルの名を呼ぶの?
しかも、こんな晩の時間に男が3人組で2歳の女の子に、どんな用事があるのか、、
ダメだ、嫌な予感しかしないわ。
私は焦りシエルに家の奥に逃げる様に指示をする。
「シエル!!部屋の奥にいっ、、、、、」
『部屋の奥に行って』とシエルに言い切る前に背後から鋭利な何かで腹部を裂かれるような痛みを感じ、言葉が途絶える、、、
先程の男性が私の腹部にナイフの様な刃物を突き刺したのだ。
想像を絶する痛みに耐えきれずに地面に倒れ込む、、
ナイフから赤い血液が地面に流れる感覚がする、、
これは肝臓をやられたわ、、、
油断した、これだと5分もしないうちに私は死んでしまわ、、
魔法で治療をしなければ、、、、
でもそれは出来ないわね
「まま!!」
「シエル、」
シエルがこっちに駆け寄るとしている。
相手の目的は分からないけど、シエルが狙われてるのは確か、、
このまま私の所にシエルが来たら、、、
最悪の事態が脳を過る
それだけは絶対に避けないと、
シエルは、、
私が、、、
命に変えても絶対に守るわ、、、
私は痛みに耐えながら、振り絞る様に微かな声で魔法を唱える。
「リヴァミ、、、ティ、、、、」
シエルの居る、すぐ下にある床の木板が緑色に光り、苗木に変える。
その苗木を一気に成長させる。
その際に成長遺伝子を組み換えシエルを包み込む様に木を成長させ、
シエルを大樹に閉じ込め、敵から守る。
この家はアイアンウッドの木で建てられている、
それを私の魔法で生命を停止させた木材にもう一度生命を与え、成長させた。
その為シエルがこの木に隠れていれば少しの安全だと思う
アイアンウッドは世界一硬木材として有名でその名が示す通りに鉄の様に硬く、普通の鉄で切ろうとしても逆に剣の方が折れてしまう、、、
「まま!!まま!!」
シエルが木の中で不安がっているわ、、
なんとか、落ち着かせないと、、、
シエルが可哀そうね、、、
必死に元気な声を作りシエルを安心させてあげる。
「し、、シエル、、大丈夫だから、、落ち着いて、、」
口が血の味がするし、痛みで自分が何を言ってるかもあまり理解できないが、、、
娘を守る事だけは忘れない
「おい、、なんだこの木、、硬くて切れねぇぞ!!」
「おい、女、、、何をしあがった!!」
「・・・・」
「答えろ、、、」
男たちが私に何か聞いて様だが、今の私にはその問いに答える元気などはもうない、、、
痛みと出血により意識が朦朧としている、、
少し無茶をして魔法を使ったせいだろう、、、
さっきより血が流れる量が増えた気がする。
「、、、チッ、女はもう死にかけか、、」
「どうする?」
「どうせ木で出来ているんだ、木なら燃やせるだろう、中のガキ諸共燃やせ、」
「りょうかいです、、」
『ガキ諸共燃やす』、、
そんな事したら、シエルが死んでしまう、、
いや、男たちの目的がそれなのだろう、、、
「や、、やめろ、、」
「おぉ、女起きたか。」
「俺らもガキを殺す趣味はないが仕事だからな、、悪く思うな。」
「お前が娘を木に閉じ込めなかったら、苦しめずに死ぬ事が出来たのにな、、可愛そうに」
「「「あはははは、、」」」
クズどもが、、、
アイアンウッドだからそう簡単には燃えないけど、、
シエルをなんとしても助けないといけないわ、、
しかし体が動かない、、、
頭では分かっていても体が動かす事が出来ない、、
自分の無力さを恨む、、
男の一人が
シエルが中に入っている木に火を付ける、
がやはり火が付かない様子だ。
でもアイアンウッドも木なのでいずれ燃えてしまうだろう。
それまでに何とかしないといけないわ。
「この木、なかなか燃えないな、、」
「だが、もう時期火が付くだろう。」
「だな、」
「よし、火力を上げろ。」
「了解、、」
男は魔力をさらに込めて火力を上げようとした。
だめ、、シエルが、、
シエルが、、
どれだけ、助けようと思っても体が動かない、
私にはもう、助ける事は出来ないわ
しかし、希望はまだ捨てていない。
三日前にある約束をした少年がいる。
その子は『必ず守る』と私と約束してくれた。
私はあの子は絶対に助けに来てくれると信じている。
だから私が出来るのはその子が助けに来るまで、時間を稼ぐこと、、
「、、、、ミティ」
シエルの隠れている木を変形させ、木から鋭利な枝が生え男たちを襲う。
それに驚き、魔法を止まる
「クソ女、いい加減にしろ、、、死にかけだと思って放置していたら、調子に乗りあがって」
「先にこの女から始末しましょうぜ。」
「だな、、」
私に向けて魔法を放つ準備をする。
「すぐに娘もそっちに向かわせるから、安心しろ、
私に炎球が襲い掛かる、、
はぁ、私死ぬのか、、
まぁ、どの道この状況じゃ、
私は助からないし、
死ぬのは覚悟できたけど、、
シエルの、、
シエルの無事だけが心配だ、、、
シエル大丈夫よ、、
すぐに
すぐに、お父さんが助けに来てくれるからね。
シエル、アナタだけは絶対に助かるわ、、
ママが約束するわ、、
娘が助かる様に祈りを込め目を瞑る
「炎よ戻れ!!!」
死を覚悟した、、
その時、聞き馴染のある青年の声が聞こえる。
私に向けられた攻撃魔法が放った術者の元へ戻って行く、
戻った魔法は相手に当たり爆発、、
魔法を放った男は体中が炎に包まれる。
「ぎゃあああ、あつい、熱い、熱い、熱い、熱い」
「火力上昇!!」
男の体を包む炎が発光したと思えば、その炎が消えた。
消えた炎の後には男の姿もなく床に塵の様な燃えカスが少し残っていた。
こんなバカげた火力の炎色魔法を使える人、、私は一人しか知らないわ
私は玄関の入り口を見るとそこには赤髪の青年が立っていた。
その青年はと三日前に約束した人物。
イグだった。
「マハイルさん!大丈夫ですか!」
「わ、、、わたしの事は、、いいから、、」
「クソ、良くも俺の仲間を、、、炎の砲撃」
男がイグに向けて魔法を放とうとする。
「フェニクス
魔法を向けた男に、イグの使い魔が目にも止まらない速さで窓から入り、直線状に過ぎ去り、
そのまま別の窓から外に出て行くのを確認できた。
ファニちゃんが去った後を見るとさっきイグに攻撃魔法を向けていた男の姿が無かった。
フェニちゃんがやったんだろう。
「、、、マハイルさん少し待て下さいね。すぐに助けますから。」
イグは残りの一人の男の元へと無言で近づく。
「ふ、、お前がどれだけ強くても俺には手を出せない。
おっと、動くなよ。この木の中にはあの女の娘がいるんだ、それ以上近づくと娘を殺すぞ、、」
「、、、、」
イグは男の脅しを聞こえてない様に、、歩き近付く。
「クソ、、脅しだと思ってるな、、いいだろう、なら炎色魔法
「、、、、、
男の放つ攻撃魔法をイグが消し去った。
あはは、本当に何てデタラメな力なのよ、
魔法が使えない状況に戸惑っている男の肩に軽く手を添える。
「クソ、なんで俺様の魔法が、、、」
「、、、うるさい、
イグの手から出た炎が男の体を包み込む。
先程の男と同様に一瞬発光して、すぐに炎が消える。
その場に男の姿が無くなっていた。
一瞬の出来事で、男は悲鳴も上げる事も叶わなかったようだった。
そのままシエルが居る木に向かい、炎の剣の様な物で木を焼き切る。するとシエルの泣き声が聞こえる。
無事の様で良かったわ。
「うぅ、、、うえぇぇん、、、おとうさん。」
「ごめん、助けるのが遅くなった、ケガは?」
「うぅ、、うん、だいじょうぶ、、ままは?」
「そうだ、マハイルさんの治療をしないと。」
私の元に2人が急いで駆け寄ってくる。
あぁ、シエルにこの姿見せたくないな、、
「マハイルさん、、けg、、、、」
「おとうさん、どうしたの?」
イグは気が付いたようね、、
「、、、、、マハイルさん、ごねんなさ」
「あ、、あやまらないで、、いぐ」
「おとうさん、、ままは?、、ままはどうなるの?」
「まだです、、まだ何か、手が、、」
「いぐ、、いいの、、、もう」
こんな姿でお別れしたら、、シエルに一生の傷を負わせてしまうかも、、、、
でも、私が母親としてこの子と一緒に入れる時間は少ない。
残された時間でシエルにあげれる物をあげないと、、
「し、、シエルこっちおいで。」
「まま、、どうしたの?ねむそうだよ?」
「あはは、、そうだねちょっと眠たいかな?」
そう、まだこの子には私が永遠に眠る事なんて知らないでいいの。
まだね、、
「し、、える、、あなたは私のたからよ、、」
「えへへ、」
「あなたに、、この先、、悲しい事が起こるわ。
でもだいじょうぶよ、、周りには、助けてくれる人がいっぱいわ。」
「うん、、ままも、、いるもんね。」
私もか、、、
ごめんねシエル、、あなたに最初で最後の嘘をつくわね
「、、、そ、、そうね、」
「まま、ないてるの?」
涙が私の瞳からこぼれ落ちる
「ごめんね、、しえる、、」
「まま、、なかないで、、」
私の頭をシエルが撫でてくれる。
「いぐ、しえるを、頼むわよ、」
「そんな事、言わないで下さい、シエルにはマハイルさ、、、」
「いぐ、、、たのむわ、、」
「、、、、、、はい。」
「それでいいわ、、、ゲホッ、ゲホッ、、」
「マハイルさん、、」
あぁ、もう時間が無いようね、、、
やっぱり、死にたくないなぁ、これからシエルにいっぱい愛情込めてあげようと思ったのになぁ、、、
あはは、もう体の感覚がなくなって来たようね、、
「いぐ、、あまり、、せきにんに、、思わないで、、」
「・・・・・」
「いいわね、、」
「・・・・はい。」
よし、あとはシエルね。
「しえる、、ままの、、おねがい、、、きいてくれる?」
「うん、いいよ。」
「ままに、さっきよんだ、、ほん、、、よんでくれる?」
「うん、しえる、ほんが、なくってもよめるよ。」
「あはは、さすがね、、じゃあおねがい。」
この本はシエルが生まれてからずっと読み聞かせて来た物だ。
「よむよ、、むかしむかし、ママクマと、コグマがもりのおくにすんでました。、、コグマにはパパグマがいませんでした。がそのかわりにママグマが、、、、、」
あぁ、、シエル、、、成長したわね。
この先どんどん成長するんだろうなぁ。
本読めて、
家事を手伝ってくれて、
学校にも行って。
友達もできて。
友達と喧嘩したりして、仲直りの仕方なんて聞いて来るのかしら?
ふふっ
シエルはどんな仕事するのかしら?
お花屋さん?先生?
本が好きだから、本屋さん?
恋人も連れてきたりして、結婚して、子供が出来てね。
シエルはこんな子供を一人にして、
先に行くママになっちゃダメよ。
あぁ、シエル。
私の大好きなシエル、
あなたの成長見れないのは残念で悔しいけど、、、
最後に一つだけお母さんのお願いを聞いてね。
『シエル、幸せになりなさい、、、』
「こぐま、、、まま?ねちゃったの?」
「、、、マハイルさん、助けれなくて、ごめんなさい、、、」
「おとうさん、なんでないてるの?」
「ううん、ごめん、本の続き読んであげて、、」
「うん、、コグマはママくまの、こどもにうまれて、しあわせでした、、」
―――――———
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マハイル=ヴァインス、愛娘の声を聴きながら、眠りにつく。
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