第5話 拠点を確保しました
「素材、素材っと」
エアコブラが地面に落ちる前に【念動力】カードを使って引き上げる。
「あ、【なんでも収納】で、じかに回収すれば良かったのか」
二度手間だったが、まあいい。
面倒な敵は排除できたのだから良しとしよう。
「無駄な時間を使わせてくれたじゃないか」
死んだ相手に愚痴を言っても始まらない。
先を急ぐとしよう。
遅れた分を取り戻したいところだが空気抵抗がネックなんだよな。
そんな訳でイマジナリーカードの投入だ。
使うのは【台風の目】、あらゆる自然現象から守られるカードである。
本当の台風の目はそういうことはできないとわかっちゃいるんだが他に良い名前を思いつかなかったんだよ。
どうせ俺にしか見えないカードなんだし公表するつもりもないから問題ないよな。
さっそく【台風の目】のカードを呼び出して使うと瞬時に空気の流れを感じなくなった。
「これでスピードアップできる」
高度を上げて一気に加速した。
低空のままだったら森の木々が衝撃波でどうにかなっていたかもしれないくらいのスピードで飛べば、眼下の景色がみるみる変わっていく。
その感覚は心沸き立つものがあった。
新幹線の車窓から外を眺めているような、そんなワクワク感を久しく忘れていたのだと気づかされた。
社会人になってから10年近くなるがデスクワークゆえに出張などはない。
おまけに休みの日に旅行をするOLのような趣味もない。
いや、これは偏見か。
いずれにしても長距離移動なんて久々だ。
「こんなにも楽しいものだったなんてな」
学生時代にイジメがなければ、もっと早く気づけていたかもしれない。
……そうではないか。
イジメがあるから数々のイマジナリーカードを考案し創造してきたのだ。
【念動力】で空を飛ぶことを思いついたのも必要に迫られてのことだったし。
そんなことを考えている間に岩山近くに到着。
徐々にスピードを落とし山の少し手前で停止する。
高さ的には中腹あたりだろう。
それにしても呆気ないというか、あっという間の遊覧飛行だった。
「最初からこうしておけば良かったな」
久々に使った高速飛行のコンボパターンだから忘れていたのだ。
前に使ったのは学生時代だしな。
脂肪キングを島流しにした無人島もその当時に別の相手を島流しにするつもりで飛び回って見つけたものだ。
無人島以外の場所にも行った。
パスポートを持ってなかったのでバレると面倒なことになっていたと思う。
「それにしても……」
岩山を間近で見るとアルプスとかを想起させてくれるほど雄大だ。
「人がほとんどいないのも納得だな」
麓付近には村や集落があるように見受けられるが【敵意レーダー】カードの反応では2合目くらいですでに空白地帯と化している。
環境の厳しさだけが理由ではなさそうだが人の来ない場所に拠点を設置するなら好都合というもの。
念のため中腹あたりの断崖絶壁になっている場所を選んだ。
登ってくるのも降りてくるのも困難な高さの壁面の前に【念動力】で立つように浮く。
岩肌しか見えない場所だが【岩石流転】カードの出番である。
このカードを使えば意思の力で岩石や土砂などを自在に変形加工できる。
故にどれだけ固い岩盤であろうと瓦礫を出すことなく容易に穴を開けられるのだ。
数メートルほど掘り進めて前進してみたが月明かりが届かない。
このまま背後を閉じてしまうと何も見えなくなるだろう。
ここで暗闇でも昼間のように見える【闇夜の目】カードを呼び出して使う。
掘り進めたツルツルの壁面が見えるようになった。
「よしっ」
そして背後は外から見てもわからないよう空気穴だけ残して閉じるのみ。
外は絶壁に紛れてわからないように岩肌を再現し内側は磨き上げた大理石のような壁にする。
薄壁1枚ではなく外から破ろうとしても容易ではないくらい分厚くした。
どうせ出入りは【どこで門】カードを使って好きな場所に出て行くのだから問題はない。
俺が通過してきた場所とその際に視界に収めた場所はすべて移動可能なんだから。
念のために脂肪キングの国とその隣国からは離れたいところだが超音速でそれなりに飛んで来たから大丈夫だろう。
俺を召喚したガルドラ国が超大国だというなら話は別だが。
それも心配ないとは考えているけどね。
勇者を頼りにして戦争をしようと考えるような輩の国の規模がそこまで大きいとは思えないからだ。
まあ、油断は禁物か。
拠点を設置したら次は情報収集しないといけないな。
とはいえ今は拠点を快適な空間にすることに専念すべきだろう。
そんな訳で使いっぱなしの【岩石流転】カードを用い好きなように岩山の中を掘り進めていく。
ただし、洞穴という感じにはせず幾つか部屋も作った。
真っ先に用意したのは寝室だ。
お姉さんが未だに眠っていたからね。
いつまでも【念動力】で浮かせたままにする訳にもいかないし、毛布を敷いて寝かせておいた。
「それにしても起きないよなぁ」
酷くボコられて消耗したせいだろうか。
怪我は治したが体力まで回復させた訳じゃないからな。
念のために【なんでも収納】から非接触型の体温計を出して測ってみたけど問題ない。
異世界人だから体温が俺たちと違うとかだったらアウトだけど。
そういうことはないと思いたい。
「呼吸も乱れていないから大丈夫だろ」
希望的観測なところがないと言えばウソになる。
ただ、それで悶々としていても仕方ないので拠点造成作業を続けた。
リビングダイニングを中心に台所や物置なども用意しましたが何か?
「うーん、秘密基地というか別荘というか……」
自宅アパートより豪華な間取りである。
家賃かからないし問題ないよな。
勢いで自宅では考えられない広さの風呂も作った。
もちろんトイレは別だ。
匂いの問題は強制的に換気することで解決している。
換気口を絶壁の方向へつないで任意の強さと方向へ風を吹かせる【吹けよ風】のカードを使った。
使いっぱなしになるのでカードは使い捨ても同然になるけど足りないなら作ればいいだけのことだ。
「空気穴の方にも使っておこうか」
密閉に近い空間だから空気がよどむとヤバいもんな。
そしてバストイレに戻ってくる。
【吹けよ風】と同様に他のイマジナリーカードも何種類か付与した。
任意の場所に湧き水を出す【湧水泉】カードで水道を、汚物を消し去る【穢れは無に】と【浄化消毒】のカードで下水問題も万全だ。
生ゴミが出てもトイレで処理してしまえる。
コンポストじゃないから肥料はできないけどね。
「おっと明かりがない」
そのあたりはお姉さんが寝ているし後で解決しよう。
とにかく俺の別宅、完成だ。
試行錯誤しながらだったので作業開始から結構な時間がたっている。
どうにも眠くてしょうがない。
しょうがないんだけど会社に行かないといけないので寝ている時間はないというジレンマ。
有休を使おうにも今のパワハラ上司は絶対に認めないだろう。
上役へのゴマすりだけは一級品のブラック上司である。
いや、モンスター上司と言うべきか。
「どうでもいいか」
反撃の準備は整っているから、じきに会社から消えることになるだろう。
まあ、今日のところは出社しないとな。
「あ、お姉さんはどうしようか」
連れて帰ると目を覚ました時に問題が起きないとも限らない。
自宅から出られたらアウトだよなぁ。
見た目は外人さんだし着ている服は現代日本じゃコスプレっぽい。
おまけにボロボロだ。
間違いなく警察へ通報されるだろう。
「置いていくしかないか」
監禁しているっぽくて罪悪感が湧いてくるけど犯罪者になるのはね。
適当に食べ物を置いていくので勘弁してください。
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