叔母ちゃまは月光カレン(月光カレンと聖マリオ22)

せとかぜ染鞠

叔母ちゃまは月光カレン

 叔母ちゃまと慕われる俺さまには3分以内になさねばならぬことがある。

 三條さんじょう公瞠こうどう 巡査は記憶障害のせいで自らを7歳児だと信じている。そして彼の宿敵であり信仰対象でもある俺は7歳児青年にとっては叔母に見えている。甥っ子を救うために叔母ちゃまは体を張るのだ。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがテーマパークのアトラクション参加者たちを危機にさらしたとき,7歳児青年は迷わずバッファローの群れに驀進した。

 三條の走る速度とバッファローたちのそれと距離との関係からタイムリミットを算出した――3分以内に対処する必要がある。三條を抱えてバッファローの群れを避けてみるか。だが待て――それは所詮姑息な手段だ。三條を救出できても暴走するバッファローたちを制止しない限り犠牲者の出るのは必至だ。時間が浪費されていく。もう動くしかない!

 天高く飛翔した――

 群れの先頭を走る一際身体の大きなバッファローの背上に着地するなり赤褐色の毛皮に足を滑らせながら両内股で隆々と盛りあがる肉瘤を挟みつけ,同時にハンドルに適した2本の角を握りしめる。左だ――左へ行こう――

 バッファローの群れが急旋回して進行方向をかえる。両腕を水平にのばし胸をひらけて立ちはだかる三條の鼻先を,バッファローたちの毛筋が擦れて過ぎた。チケット販売窓口の手前で群れはゆっくり静止する。俺は群れのリーダーを愛撫しつつ別れを告げて,ほかのバッファローたちにもウインクしてみせる――悪いが惚れるなよ。

 ジャスト3分,任務完了。

 バッファローたちが名残惜しげな声を漏らすなか気絶した三條を肩に担ぎあげる。

 やっぱりあの人,月光カレンよ! 月光カレンが助けてくれたわ!――大衆の歓声を浴びながらオサラバする。

 動物触れあい広場のテント陰で男たちがライフル銃を片づけている。

「ヘマしやがって!――」テーマパーク所有者のIT企業社長 魔導まどう 招鬼まねき が銃を叩きつける。

 殺伐とした雰囲気だった。

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