【オリジナル脚本】現代劇/サスペンス【短編】

悠宇呂

【短編】DARKEN【古痕】

シナリオセンターで書いているオリジナル脚本

原稿用紙10枚分:約10~15分の短編 or 作品冒頭 or 作品の一部シーンの切り出しのような形


脚本の読み方は特殊なので、こちらを一読して頂けると幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/animaarca777/news/16818023214175603705


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 執筆日:2023年12月13日


【登場人物】〈名前+(年齢)+簡単な人物紹介 or 職種〉

田所カズ(17)(25)高校生→会社員

黒多ケン(17)(25)高校生→会社員

田所ケイジ(25)カズの双子の弟

田所ジュート(30)カズの兄

田所リノ(6)カズの妹

山崎(45)カズの上司


【あらすじ】

高校時代に田所カズは、黒多ケンが男性を暴行して財布を盗むところを目撃し、黒多から頭部を殴打され、記憶を失う。


以下、本文


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DARKEN

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○横浜市・路地裏(夜)


   ゴッ!ゴッ!と殴る音が響く。


   黒多ケン(17)が男性を鉄パイプで殴っている。男性は頭部が血だらけ。


   黒多はゴソゴソと男性のポケットをあさる。そこに偶然、田所カズ(17)が自転車を停めに来る。


カズ「えっ……く、黒多……?」


   黒多はハッと振り向く。


   猛然とダッシュしてカズに近付く。


カズ「え?あ、ちょ、ちょっと……」


   振りかぶる黒多。ゴッ!と鈍い音。


 


○株式会社ルイボス・外観


   タイトル『8年後』


 


○同・会議室


   数人規模の小さな会議室。山崎(45)の横にカズ(25)が座る。


   遅れて黒多(25)が会議室に入室。


黒多「失礼します……」


   黒多は眉間に皺を寄せる。


山崎「どうした?黒多。知り合いか?」


黒多「あ……、いえ……」


山崎「紹介する。先週入社した田所君だ」


   黒多はハッとして目を見開く。


カズ「初めまして!田所です!よろしくお願いします!」


   カズは元気よく頭を下げる。揺れる髪の隙間、額に痛々しい傷の痕。


黒多「……は、初めまして。黒多です」


   黒多は目が泳ぎ、少し手が震え、冷や汗をかき始める。


山崎「どうした?調子悪いのか?」


黒多「あ、いえ……」


山崎「では本日の議題を話す」


   山崎が大型モニターの画面をつける。


 


○アーバンテラス赤羽・田所家(夜)


   ソファーでカズと双子の田所ケイジ(25)が横並びに座って話している。


ケイジ「カズ、新しい職場はどうだった?」


カズ「あ~、めっちゃいい感じだったよ~」


ケイジ「お前、その軽い感じで大丈夫だったのか?」


カズ「あ~、うん。全然平気だよ。……ケイジ、それより兄貴は?」


ケイジ「兄貴はぐっすり寝てるよ。しばらく起きそうにない」


   電気が消えたベッドルーム。


カズ「良かったぁ。兄貴は一生眠っててくれれば良いのになぁ~」


ケイジ「ハハッ。確かに」


   台所から田所リノ(6)が出て来る。


リノ「ねぇ~、お腹空いたぁ。甘いの食べたぁい」


カズ「あ~、わかったわかった。一緒に食べよう。リノ」


   テーブルに1つだけケーキが置かれ、フォークが伸びる。


○パークハイツ池袋・黒多の部屋(夜)


   電気が消えた部屋。黒多が寝苦しそうにしている。


黒多「うぅうぅあぁ~……あぁっ。ごめん!許して!許してくれ!」


 


○荒川堤防(朝)


   フードを深く被って目元が見えない田所ジュート(30)が走っている。


 


○アーバンテラス赤羽・田所家(朝)


   ジュートが玄関から戻って来る。


ケイジ「あ、起きてたのか。兄貴」


   玄関で靴を脱ぐジュート(30)が、ケイジを睨みつける。


ジュート「体が鈍る。テメェらは運動しなさ過ぎだ」


   そこにリノがやって来る。


リノ「怒っちゃや~だ~!」


ジュート「うるせぇな。……俺はシャワー浴びて寝る」


 


○同・浴室


   カズがシャワーを浴びている。


 


○株式会社ルイボス・外観


 


○同・会議室


   山崎とカズが小さな会議室で向き合って座っている。


山崎「どうだい?一週間働いてみて」


カズ「はい……。とても素晴らしい環境で、仕事もやりがいがあると感じています」


山崎「……今日はやけに落ち着いてるね」


カズ「ありがとうございます」


   山崎は首をかしげる。


山崎「でね、田所君。君のお父さんは、私の元上司なのは聞いてるね?」


カズ「あ、はい。もちろん伺っております」


山崎「で……、君の……、学生時代の出来事も聞いているんだが、その、記憶喪失……になった事があるらしいじゃないか」


カズ「……あ、はい。それがどうかされましたか?今はこの通り、元気ですよ」


山崎「いや、それでね……、もし物忘れが起きたり、身体に不調が出たら、直ぐに相談して欲しいんだ。私は君の味方だからね」


カズ「あぁ……、ありがとうございます」


   突然、カズのお腹がぐ~っと鳴る。


カズ「あ~、お腹空いたぁ~!お昼休みにしよ~!」


   山崎は面を喰らう。カズは自分の頬っぺたをペチッと叩く。


カズM「バカッ!引っ込んでろ!」


カズ「……あ、すみません」


   山崎は苦笑いをする。


山崎「ははっ。あはは……。じゃあそろそろ昼飯にしようか。一緒に行くか?」


カズ「あ、是非是非!」


 


○株式会社ルイボス近くの路上(夜)


   帰宅する黒多が歩いている。


カズ「黒多さ~ん!」


   カズが黒多に駆け寄る。


黒多「た、田所君……。お、お疲れ様……」


   黒多はビクッとして、キョドる。


カズ「どうしたんスか?黒多さん」


黒多「あ……いや……、あ、俺と田所君って同い年だろ?タ、タメ口で良いよ……」


カズ「いやぁ~、さすがにそれはぁ~」


   黒多は何か言いたげな様子。


黒多「あ……あのさ……、田所君って、実家は横浜だっけ?」


カズ「あ~、どうして知ってるんですか?」


黒多「あ、いや、俺も昔、横浜の方に住んでた事あってね……高校の時に引っ越したんだけど……」


カズ「あ~、ボク、高校の時に頭打って記憶喪失になっちゃったんですよねぇ~。数か月入院してたらしいッスけど、全然覚えてなくて……」


   黒多はホッとしたような顔を見せる。


黒多「あ、あ~、そうなんだ!そうなんだ⁉……そっか……記憶喪失……そっかぁ!」


   黒多は嬉しそうに笑みがこぼれる。


   カズが突然、ガクッとして、倒れはしないが、バランスを崩す。


黒多「あ、大丈夫?」


   カズがむくりと上半身を起こす。


   先程までより少し体が大きく見え、ジュートにそっくりになる。


黒多「……えっ?」


   ジュート似のカズが眉間に皺を寄せ、鋭い目つきで黒多を睨みつける。


カズ「……オメェ、さっき何て言った?」


   急激な変貌に黒多は慌てる。


黒多「……え?大丈夫?って……」


カズ「そうじゃねぇよ!さっき、横浜に住んでたっつったよなぁ⁉」


黒多「はひっ⁉……な、何だよ急に⁉」


カズ「テメェ~……、どっかで見た事あるんだよなぁ……」


   カズはジロジロと回り込むように黒多を見る。黒多は後ずさりする。


黒多「い、いや、人違いだ!人違い!お、俺は、なな、何にもしてないって!」


カズ「何にも?……何だ?何にもって……?何かしたみてぇじゃねぇかよぉ⁉」


   カズは黒多の肩を掴み、暗い路地裏に連れて行く。物凄い力。


黒多「い、痛いっ!離して!」


   カズは黒多の顎を思い切り掴む。


カズ「でけぇ声出したら、殺すぞ」


黒多「たっ……だ、誰かっ、たす――」


   カズは黒多の腹部に思い切り膝蹴りをする。黒多は悶絶してしゃがみ込む。


   すかさずカズは黒多の首根っこを掴む。


カズ「でけぇ声出すなっつったよな……?」


黒多「ううぅ……すいませんすいません!」


カズ「正直に話せよ?テメェ、あん時の鉄パイプ野郎だな?……おい、コラ……」


黒多「……い、いえ、し、知りません……」


   カズは黒多の額を何発も殴りつけ、首根っこを掴んで起こして、頬を思い切り殴りつける。黒多は数メートルぶっ飛び、ゴミ箱にぶつかって倒れ込む。


黒多「ぐ……ぐうぅうぅ……だ、誰か……」


   カズは黒多の腹部を踏みつけ、グリグリとする。黒多は苦しみ、悶える。


カズ「テメェのせいでなぁ……テメェのせいで……俺は……ん……グウゥゥゥ……」


   カズは突然苦しそうに頭を抱える。


カズ「もうやめてよ!お兄ちゃん!」


   黒多は驚き、目を見張る。


カズ「もう止めろ……止めてくれ!……何でだ⁉止めるんじゃねぇよ!クソがッ‼……も、もう良い!……止めてよぉっ‼」


   カズは頭を抱えて悶え、うずくまる。


   その隙に黒多はよろよろと立ち上がり、落ちていた瓶を拾い上げる。

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