回想9


 入社してすぐは休憩もそれなりに取っていたが、今となっては懐かしい思い出だ。

「大変だろうけど一緒に頑張ろうな」と同期達で必死に身を寄せ合ったこともあった。嗜好品のレトルトキューブとかも食べてた。

 雑談もしていた気はするが、どんな内容だったかは忘れた。


 仕事量が増えていくとともに、一人ずつ消えていった。

 先輩も後輩も上長も部下も同僚も同期も、みんな消えていった。

 自分より遙かに能力が高かろうが関係なかった。


 今はなき同期の一人が、寒空の下、自分の夢を語り出したことがあった。

「過去の偉人と同じように技術を見つけて、誰も苦労しないで済む世界にしたいんだ」

 コイツは終わったな、としか思わなかった。


 実際、ソイツは翌年の夏、デスクの引き出しに引き籠もったまま出てこなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る