回想8
父さんの書斎の壁にはダーツボードが付けてあって、毎日のようにダーツを投げていた。「壁に穴が空いちゃうから、せめてソフトにして欲しい」と母さんは嘆いていたけれども、日頃は母さんの言う通りに動いて、要求らしい要求をしてこなかった父さんがことダーツ関係に関してだけは頑なだったのは印象深い。防音加工されていたので、部屋のすぐ傍まで寄らないと聞こえなかったが、トントントンとリズム良く音がしていた。
「何か用か」
ダーツボードの中心に一匹の小鳥がいる。既に両翼ともピンで固定され、落ちないようにしている。体じゅうに刺し傷がついている。父さんはそこに向かっていつも通り、リズム良く三本の金属の矢を投げていた。矢の一本が頭部に達して、顔を潰していく。
「あの鳥さんはね、ダーツの腕を効率よく上げる為の教材なんだ。鳥さんを狙うようにしたら上手く投げられるようになった。要するに指向性が大切だということだ。目的もなくダーツボードに矢を投げるだけでは意志はまとまらない。中央に刺さっても、端に刺さっても、机上の点数の違いがあるだけで面白みがない。目標を配置して、そこに目がけて投げる。当たれば変化がやってくる。これが人のやる気を引き出するんだな。まあ、もうこの鳥さんは面白みがなくなってきたから、また別のにするがね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます