お化け屋敷の秘密

とりあえず 鳴

人間と幽霊

 お化け達には三分間にやらなければならないことがあった。


 とあるお化け屋敷には噂がある。


『本物のお化けが出る』と。


 そんなのは客を集める為の嘘にすぎない。


 実際言った人のクチコミを見ても『やっぱり本物なんていなかった』『ちゃんと足があった』などが書き込まれていた。


 だけど自分の目で見てもないのに全否定するのは違うだろうと、私はこうしてそのお化け屋敷にやって来た。


「……帰りたい」


 やって来て思ったのだが、私はそもそも怖いのが駄目だった。


 夜道も怖くて怯えながら帰っているし、テレビで怖いもの特集なんかがやっていても見た事がない。


 そしてお化け屋敷なんて入ったことがない。


 なのになんでこのお化け屋敷には来たのかと言うと……。


「ほんとになんで来たんだろ。チケット貰った時にちゃんと確認すれば良かった……」


 そう、友達からここのお化け屋敷のチケットを貰って、その時は普通の遊園地のチケットだと思っていたけど、やって来たらこのザマだ。


「今からでも帰る? でも今日行くって言っちゃったし、感想求められてるんだよなぁ……」


 私が怖いものが駄目なのは昔馴染みの友達しか知らない。


 だからこのチケットをくれた友達も善意でくれている。


 だからここで帰るのはなんか色々と裏切るみたいで駄目な気がする。


「とか言ってたら順番だもん」


 そもそも行列は出来てなく、ウロウロしていたら入る人がいたのでその後に続いて合法的に待ち時間を作った。


 それがだいたい三分前。


(早いよぉ……)


 前の人が出てきて、案内員さんが私に道を示す。


 言い方はかっこいいけど、地獄への道だ。


 今更帰ることも出来ないので意を決して中に入った。


「あ、これはやばいやつだ」


 何やら案内員さんが喋っていたけど、頭には何も入ってこなかった。


 そしてそのまま中に入ったが、既に怖い。


 暗いのかと思ったら、感じるのは赤いということ。


 どうやら暗さで怖がらせるのではなく、スプラッター的な怖さを演出してるようだ。


「ははっ、足が動かん。これはお化け屋敷の効果? それとも……お化け屋敷の効果?」


 お化け屋敷の仕様か、私が怖くて動けないのかと言いたかったけど、どうやら既に頭をやられたらしい。


「このまま動かなかったら誰か助けに来て──」


 カタッ


(私、死ぬかも)


 右側から何かが落ちる音がした。


 分かっている、見たら死ぬということに。


 もう心臓が痛い程バクバク言っている。


 この状態で右なんか見た……。


 そこで私の意識は飛んだ。


 目の前に私が現れたからだ。


 ドッペルゲンガーというものかもしれない。


 まぁもう意識のない私には関係……。


「ない?」


 私が目を覚ますとそこは病室だった。


「私、気絶して運ばれた?」


 記憶はないけど、きっとそういうことだ。


「良かった、無事に脱出でき──」


「また気絶しちゃった」


「いやいや、もう気絶なんて出来ないから。ほら起きて」


「ワタシ、キゼツシテル」


「すごいカタコト。現実見な、あなたはもう


 なんとなくそんな気がしたから気絶したのだ。


 出来なかったけど。


 だって起きたら宙に浮く人間がいたら気絶ぐらいしたくなる。


「私、死んだの?」


「正確には少し違うけど、肉体は無いし、普通の人には見えないから死んでるようなものだよ」


 そう説明してくれるのは、幽霊Aの女の子。歳は高校生ぐらいだと思う。


「詳しく説明すると、あなたの肉体は私達と居たもう一人の幽霊に持っていかれたんだよ」


 そう説明してくれたのは、幽霊Bの男の子。歳は中学生ぐらいだろうか。


「私の体盗まれたの?」


「簡単に言うとそう。それがこのお化け屋敷だから」


 幽霊Aちゃんが笑顔でそう言う。


「ここって、本物の幽霊が肉体を得る為に作られたみたいで、三分間人間を恐怖させた上で外に出さなければなり代われるみたい」


 幽霊B君がそう説明してくれる。


「だからお姉さんみたいなのは取り合いなんだよ? お姉さん入って来てからずっと怖がってたから」


「でも私三分も居なかったよね?」


 体感では一分も経っていなかった。


「意識飛んでたんじゃない? それか何かを始めようとする時って時間が過ぎるの早いから」


「あ〜それ分かる。勉強やらなきゃーって思ってる時はあっという間時間が過ぎるけど、一時間勉強しようって思うと全然進まないよね」


「なるほど?」


 よく分からないけど納得せざるを得ない。


「つまり私が人間に戻るにはここに来た人を三分間怖がらせればいいのね?」


「そう」


「ちなみに私の元の体には戻れるの?」


「元の体が来ればね。せっかく手に入れた体を手放す奴はいないだろうけど」


「じゃあ知らない人の体になるのは確定なんだ……」


 それは少し嫌だけど、そんな事言ってられない。


「幽霊のままだと成仏出来ないとかある?」


「少なくとも私はこの建物が出来てからずっと居るよ」


「ここって出来たの結構古いよね?」


 噂自体は最近有名になってきたけど、建てられたのは数十年前だとネットに書いてあった。


「お化け屋敷の前は学校? 寺子屋てらこやって言うんだっけ。だったみたいだけどその時から?」


「うん。だから成仏出来るかは怪しいね」


「……分かった」


 こうなったら胃を決するしかない。


「がん、ばる……」


「お姉さん泣かないでよ」


「怖いもん」


「年齢では一番年上なのに、精神年齢は一番下だもんな」


 この子達は見た目に反して私よりも生きてきた時間? が長い。


 幽霊Aちゃんのこの包容力は高校生のものではない。


「一緒に頑張ろ。ね?」


「うん、頑張る」


 そうして私の人生は終わり、新しい幽霊生? が始まった。


 果たして私は人間に戻れるのだろうか……。


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