バッファロー的倒錯
ゼン
1
私には三分以内にやらなければならないことがあった。それは目の前の荒野で、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを打ち倒すことである。
バッファロー達の姿は恐ろしいものだった。疾風怒濤、獅子奮迅。砂埃を上げながら進むバッファロー達は設置されている格子状の柵をものともせず、全てを破壊し突き進んでいる。あの群れに巻き込まれたらどうなるか、想像もしたくない。
しかし、幸い群れは私の居る方向を向いていない。黙っていればこのまま逃げることができるだろう。
だが私はそうしない。そうできない理由があった。
バッファロー達の進行方向には民家があった。このままバッファロー達が進み続ければあの民家に激突、崩壊する事は想像に難くない。そして、もしそうなれば居住者はどうなるだろうか……。
私はバッファロー達を止めるべく、車に積み込まれたライフルを取り出した。バッファローは全部で十数体。民家までの距離は数百メートルといったところか。
私はライフルを構え、バッファロー達を見据えると小さく呼吸をした。
――冷静に狙え。私にしかできないことだぞ。
まずは一発。命中。狙い通りとはいかなかったがバッファローは集団で走るためその中の一匹に運よく命中した。
――運よくでは駄目だ。確実に当てる。
狙いをすまし、もう一発。命中。
バッファロー達は仲間が突如として倒れたことに困惑しているようだった。綺麗に並んでいた列は乱れ、速度も最初よりずっと落ちていた。
今ならいける。狙いをすまし、撃つ。撃つ。
命中だ。これで半数のバッファローを殺した。砂煙が立ち込める荒野の中、何体ものバッファローが血を流し倒れている。
……これで目的は達成した。全てを破壊し進み続けるバッファローは散り散りになり、その群れは既に崩壊している。あらぬ方向に走っていくもの、倒れた仲間でうろうろとするもの。悲惨な光景が眼前に広がっていた。
可哀想だが仕方のない事だ。ライフルを車の荷台に置き、背筋を伸ばす。何体ものバッファローを倒した興奮と目的を達成できた喜びが私の体に満ちていた。
「おい、あんた!」
突然大柄の男が私に声をかけてきた。民家の方から来ているから恐らくあそこの住人だろう。どんな賞賛が私を待っているんだろう。私はうきうきしながら声をかけた。
「やぁ!やりましたよ!見ましたか!?]
手を振りながら声をあげる。この喜びを早く共有したかった。
しかし私を待っていたのは思いもよらぬ言葉だった。
「動くな!ひざまずいて手を上げろ!」
銃を向けた男が怒号を上げる。たちまち私は拘束され、ひざまずかされた。意味の分からない状況に私はなんとか声を上げた。
「な、何をするんですか!私はあのバッファロー達を倒したんですよ!?」
みるみるうちに男は鬼の形相になった。
「黙ってろイカレ野郎が!あのバッファロー達は保護対象だ!柵だって攻撃性の発散用に用意された脆いものをわざと設置して、保護観察所の周りもちゃんと対策されてる!何も知らねぇなら黙ってろ!!!」
私は何も理解できなかった。
バッファロー的倒錯 ゼン @e_zen
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