姉と姉の友達
棺あいこ
姉と姉の友達
1 姉ちゃんと姉ちゃんの友達
「玉ねぎ……、にんじん……、カレー粉……、お肉…………。よっし」
ドアを開ける前に、俺はスーパーから買ってきた食材を確認した。
俺の名前は
今は実家から離れて、姉ちゃんと一つ屋根の下で暮らしている。姉ちゃんは大学生だから一人暮らしをするのが当然だけど、俺はまだ高校生なのに……なぜここに連れてきたんだろう。それはいまだによく分からない。
でも、今の生活……正直悪くないと思う。
なぜなら———。
「あっ! お帰り〜! 渚くん」
家に帰ってくると、姉ちゃんの友達がいるからだ。
いつも明るい声で「お帰り」って言ってくれる彼女に、俺は毎日癒されている。長い亜麻色の髪の毛と大きい瞳、近いところで見るとその小さい顔と乳白色の肌がすごくやばかった。そんな彼女に惚れないのは多分……不可能だと思う。そして、俺を見るたびに笑ってくれるそのポジティブな性格まで……完璧すぎて涙が出そうだ。
こんな人がうちにいるなんて、それだけで俺の人生は十分幸せだと……。
バカみたいけど、そう思っていた。
「はい、春川さん……レポートですか?」
「ううん。渚くんのこと、待ってたよ?」
「えっ? そうですか?」
「うん!」
なんだろう、あのドヤ顔は……。
やりたいことでもありそうな気がする。
彼女の名前は
そして、俺が通っている高校を卒業した先輩だ。
いつだったのか分からないけど……、春川さんは姉ちゃんの大切な友人って言われたことがある。今、二人が同じ大学に通ってるのも姉ちゃんがそばで強制的に勉強させたからだ。
恐ろしい姉ちゃん……。
「春川さん、姉ちゃんは?」
「あ、
そっか、姉ちゃんの帰りが遅くなるってことは……今から春川さんと二人っきりになるってこと。
俺にはすごく良い状況だけど……、少し問題がある。
「あの、春川さん……?」
「うん? どうしたの?」
「もうちょっと……、もうちょっと! えっと……、服……」
姉ちゃんも普段こんな格好をしてるから、春川さんも……影響を受けたのか。
いや……、普通の女子は家にいる時にこんな格好をしてるかもしれない。聞いたことはないから分からないけど、二人ともいつもキャミソールに短いパンツを着てるからさ……。目をどこに置けばいいのか分からなくなる。
「あの……」
てか、床にカーディガン落ちてんじゃん。
そのままノートパソコンしてたのかよ。まったく……。
「これ……、着てくださいよ」
「えっ……、いいじゃん!」
「いいじゃんじゃないです! 早く着てください」
「はいはい……。渚くんはお父さんみたい〜」
お父さん……ですか。
まあ、男として見られないのは当然なことだと思うけど……、お父さんはさすがに傷つく。
と言っても、俺は……春川さんのことが好きだ。
この気持ちはあの時からずっと変わらなかった。
「で、なんで俺を待ってましたか?」
「ふふふっ、今日の夕飯……楽しみにしてたから!」
「ああ……、そうですか。昨日、姉ちゃんにカレー食べたいから作っておいてって言われて、今日はカレーですよ」
「カレーいいね、ふふふっ。でも、その前に!」
「はい?」
後ろに何かを隠していた春川さんがニコニコしている。
「これ!」
「お、お菓子……ですか?」
「そうだよ! これね、私がめっちゃ好きなお菓子だから……! 今日新しい味が出て、渚くんと一緒に食べたかったよ」
期間限定のポッ〇ーか、この味は俺も見たことないな。
めっちゃ甘そうな気がする。
確かに、春川さんは高校時代から甘いものめっちゃ好きだったよな……。
「あーん」
「えっ? い、いいですよ。自分で食べます!」
「ダメ! あーんしてよ」
「はい……?」
そして、たまにわけ分からないことをする。
わざわざ俺に食べさせなくてもいいのに、どうやら……俺のことをペットだと思っているかもしれない。
餌をあげる飼い主かよ……。
「あ、あーん」
「美味しい?」
「は、はい……。旨いです」
「よかったね」
そう言いながらにっこりと笑う春川さんに、心臓がすごくドキドキしていた。
やっぱり……、この人と一緒にいるのは良くない。
春川さんの可愛さと美しさには……敵わないんだよぉ。
「…………」
恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。
なんか俺だけすごく意識してるような気がして、それがとてもバカみたいで、すぐソファから立ち上がった。
「えっ、もう食べないの?」
「はい。俺は……い、いいです!」
「あまり美味しくなかった……? 期間限定だったから、渚くんと一緒に食べたかったのに……」
「…………っ」
買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れて……、すぐ春川さんのところに戻ってきた。
少しなら、いいかも。
「じゃあ、一緒に食べましょう」
「うん!」
それにしても、さりげなくくっつくのは…………ちょっと。恥ずっ。
平常心……、望月渚! 平常心だ!
「ねえ、渚くんのクラスでもよくやってるよね?」
「何をですか?」
「おっひーえーう!」
お菓子の端をくわえて、何か言っている。
もしかして、これは……恋人同士でやってるあの恥ずかしいゲームなのか?
「はやふ!」
「…………えっ?」
春川さんと俺が……あのゲームをするのか? えっ? 今?
まだお菓子をくわえてないのに、顔が熱くなる俺だった。
「あははははっ、可愛い〜」
すると、じっと俺を見ていた春川さんが笑い出す。
「やっぱり、渚くんは可愛いよ〜。ううう〜、めっちゃ照れてる!! あはははっ」
「は、春川さん……。勘弁してくださいよ」
「うん? 何を?」
その顔! その「私は何も知らない〜」って言ってるようなその顔が悪いんだよ!
毎回……、毎回…………からかわれている。
でも、そんな春川さんに何も言えない俺だった。本当にバカみたい。
「ただいま」
「あっ、凛花きた!」
「姉ちゃんか……」
「ねえ、これあげるから」
「はっ———?」
持っていたお菓子を俺に食べさせてくれたけど……。
これは……さっきまで春川さんがくわえていたお菓子じゃん。
しかも、チョコが少し溶けてる。
「…………」
マ、マジかよぉ……。
「渚、ご飯はまだ?」
「あっ、うん! 今、作るから!!」
「ん? 渚、熱でもあるのか?」
「いや……、ちょっと暑いかも……」
「そっか?」
「ふふふっ、暑いって〜」
もう……、勘弁してくださいよ。春川さん……。
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