13 襲撃の報
――火急の知らせ?
騎士団長は視線を尖らせ、「王女殿下の御前だ。無礼だぞ」と、まず咎めた。騎士は自らの上司と話していたのがこの国の王女であることに気がついて顔色を変えたが、それでも伝えなければならないことがあるのか、逃げ出すことはしなかった。
「……わたしは大丈夫ですよ。何か大変なことがあったのでしょう、聞いて差し上げて」
「感謝します。……それで、なんだ?」
「左翼の防衛戦線の前に突然、上級魔獣出現! 強力な魔術を使い、しかも手下たちを連れています。あまりにも突然のことで対応が遅れ、既に犠牲が多く出ています!」
「なにっ?」
瞬時に青ざめた団長が目を見開けば、伝令役の騎士は更に言葉を重ねた。「――このままでは左翼が抜かれてしまいます!」
「馬鹿な……」
上級魔獣、と言われても、俺にはピンと来ない。が、この様子からして恐らく強い魔物なのだろう。
ちらとアインハードを見ると、すかさず「西部の上級魔獣でしたらおおかたゼーゲマンバかフランメフントでしょう。猛毒の大蛇と、炎の妖犬のことです」と説明してくれた。……ヤダ俺、もしかして、魔族の王子を魔物ウィキとして使っちゃってるのでは……?
「っ、なんと、スターニオ殿は魔物にもお詳しいのか」
するとついでに釣れた騎士団長が、アインハードに縋るような目を向けた。
「……詳しいというほどでは」
「ご謙遜なさるな。今聞いた報告によれば実際、大型のゼーゲマンバとその手下共のようです。……スターニオ殿、不躾は承知で頼むのだが、魔物に詳しいのでしたらお力をお貸し願いたい。統一大会優勝者のあなたがいれば千人力だ」
すぐに動ける騎士の数が足りないのだ、と言う。……無理もない、突然の来襲だったのだから。というか、魔物は強い魔力に惹かれる習性があるというし、一応常人よりは魔力が強い俺と、魔力保有量に関しては今更言うべきことがないアインハードが連れ立ってきてしまったことで、引き寄せてしまったのかも。
そういう可能性もあるから、俺としては行ってもらって構わない。というか次期魔王の戦闘とかむしろ気になる、めっちゃ気になる、すごい見たい。
(即死の魔術とか見たいよなあ。【
魔王が使えるって本には書いてあったけど、アインハードはまだ無理かなあ……)
相当難しい魔術だっていうから、さすがにそれは無理だろうか。
……いやでも、なんか興奮してきた。今すぐ行こうぜアインハード!
しかし。
「申し訳ないのですが、できません」
アインハードはにべもなかった。
「私はディアナ殿下の護衛騎士です。なればこそ、主の安全を守るのが最優先。殿下の御身を考えれば、戦いに参加して、この方をおひとりにすることはできません」
「そ、それは……っ、しかし……!」
青い顔で俺とアインハードを交互に見る騎士団長。
……確かにそういう言い方をされると、彼にはこれ以上言いにくいだろう。よく考えればアインハードに魔物を殺してまで彼らを助けてやるメリットはないんだし、なるほど俺の護衛は面倒事を避けるのに最適な言い訳だ。
――が、アインハード。そうは問屋が卸さない。
なぜなら俺『が』、最強男主人公のバトルを見たいのだ。
なんといっても俺はお前とシャルロットのオタクなんだからな!!
「イーノ、ならば、わたしも同行するわ。そうすればあなたも戦えるでしょう」
「は?」
何言ってんだこいつ――見開かれた赤瞳が明らかにそう言っていたが、気にしない。
「前線へいらっしゃると。どれほど危険かわかっておられるのですか?」
「わかっているわ。でも、あなたなら戦いながらわたしを守ることもできるでしょう?」
というか、できないはずがない。
俺を守りながら戦うどころか、お前はそのなんとかマンバとやらのことも、意思ひとつで吹き飛ばして殺せるはずだ。……正体がバレるから、そんな真似はできてもしないだろうが。
「イーノ・スターニオ。どうなのかしら?」
「――かしこまりました。ご命令とあらば、従います」
「スターニオ殿! 殿下、ありがとうございます!」
騎士団長が感激の声を上げる。
ピジョンブラッドの紅玉二つが、余計なこと言いやがって、という鈍い光を発した気がするが、俺は気付かないふりをして「いいのよ」と笑った。
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