三分以内に終わる恋

そばあきな

三分以内に終わる恋



 浅賀あさがたつみには三分以内にやらなければならないことがあった。


 昨日したためた手紙を、同じクラスのいぬい真澄ますみの下駄箱に入れて、扉を閉じる。

 そして自分の下駄箱の前で靴を履き替え、しばらく玄関口で待っていると、真澄が階段を降りてくるのが視界に入った。


 真澄もこちらを認識したようで、やあと言いたげに手を上げる。


「日直終わったか?」

 そう声をかけると、真澄が笑顔を向ける。


 その笑顔を見て、やっぱり好きだと再確認した。


 それから「今日も疲れたよな」なんて当たり障りのない話題をふる。

 相槌をうちながら下駄箱を開けた真澄は「あれ」と言葉を漏らした。


「……あれ、何か入ってる」

 そんな言葉と共に真澄が取り出したのは、ほんの数十秒前まで俺自身が持っていた手紙だった。


「ラブレター?」

 そう尋ねると「……分からないけど」と曖昧な返事が返ってきた。


 当たり前だ、まだ一文字も見ていないのだから。


 困ったような表情で、真澄は手紙を裏返す。

 しかしどこにも差出人の名前が書いていないことに気付いて、さらに困惑した表情を浮かべていた。

 ただ、さすがにどこかには書かれているとは思ったのだろう。

 真澄は「後で読んでみるよ」と言ってこちらに視線を戻した。


 ただ、実際に手紙を最後まで読んだとしても、どこにも差出人は書かれていないのだが、それは今の真澄がまだ知らないことだった。


 素知らぬふりをして「ラブレターだとしたらどうするんだ?」と聞いてみる。


 返答はすぐにきた。


「断るよ。いるし」


 その言葉を聞いて、時計をチラリと見る。



 ――二分四十八秒。



「そうだね、それが聞けてよかった」

「なんだよ、試したのか? 安心しろよ、二股なんかしないからさ」

「うん、分かってるって」


 そうだ、ずっと前から勝てないことは分かっていた。

 だから、差出人が俺と分からないまま振られたかったのだ。



 目を閉じて、失恋の痛みを噛み締める。



 思っていた通り、三分以内にこの恋を終わらせることができたようだった。

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