第41話
「はっ!」
「せいっ!」
英雄遺跡を攻略し始めて1時間ほど経った。
中にいる敵は剣や刀を使う敵が多く、自分より上手い剣術を見せつけられてかなり凹んでいる。
「敵が強い……」
「特殊なダンジョンだね、剣を持った敵しか出てこない」
「食らいつくので精一杯だよ……」
数はそこまでおらず、質で勝負してくるダンジョンだ。
遺跡は特殊な構造は一切無く、ただの一本道、行く先々に剣を持ったモンスターが待ち構えているだけ。
「あれってボス部屋だよな」
「そうだよね? 早くない?」
こういうのは普通、階段があってさらに下へ行くとか上に行くとか長い道のりがあるものではないのだろうか?
「とりあえず、一旦休憩しようか」
「そうだね、武器の手入れと残りのアイテムの確認かな」
武器の耐久値を簡易砥石で回復させ、ポーションの残量を共有して調整したり、お互いにある程度の作戦を決めておく。
「行こうか!」
「うんっ!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「よく来たな、私が思っているよりもお前たちは強かったようだ」
真っ黒な綺麗な黒髪を後ろで括ったポーニーテールの女性、声は遺跡に入った時に聞いたものと同じなので朱那さんとはこの人の事なのだろう。
「ここは、私の未練で出来た空間だ、ここの敵を倒しても君たちの言うLvが上がることは無い、純粋な技術で私を超えて見せろ」
再び襲ってくる威圧感に声を出すことすら出来ない。
震える手を暖かい感触が包み込んでくれる。
セナの暖かい手がぎゅっと俺の手を握ってくれる、威圧感だけだったこの空間に少しの安心をくれたその手を握り返す。
「セナ」
「イオリくん」
お互いが震える声で名前を呼び合う、ただそれだけの行為なのに俺の震えは武者震いだと言い張れるくらいには収まっていた。
「いい関係なのだな、それでは行くぞ!」
「っ!」
「リスト召喚っ!」
風を纏わせた刀と朱那さんの刀がぶつかる。
力負けした訳じゃないのに俺の剣は弾かれ、腹を切られる。
大したダメージじゃない、どうしてだ?
「うそっ、Lv1……」
「マジかよ」
セナのつぶやきでやっと気づいた、彼女の頭上に表示されるNPCアイコンとLv1の表記。
つまり俺はLv1に技量差だけで負けたのだ。
「Lvとは時間の経験値、熟練度とは己の努力のLv」
「長寿の種族がいる以上、私たちは絶対にLvで上回ることが出来ない、ならば己を磨く以外に方法はないだろう? さぁ、かかってこい、お前たちに技量の差を見せてやろう」
ポーションでHPを回復して、朱那さんの方へと刀を構える。
セナの合図を確認して、納刀して魔力を溜める。
朱那さんの構えはとても綺麗で、本人が美人なのも相まって構えているだけでも絵になる。
しかし、隙のない構えは敵として認識された俺たちから見れば、絶望を叩きつけてくるかのような絶対的な力を見せつけられている気分だ。
「チェンジ」
「ふっ!」
渾身の一撃は片手で受け流され、その勢いで2度3度と切りつけられる。
ここで引く訳にはいかない、ここで引けば次はこの間合いに入ることすらできなくなるかもしれないのだ。
「はっ!」
何度も何度も遺跡の大広間に響き渡る刀と刀がぶつかる音。
たまに飛んでくる矢が、噛み付く狼が俺に反撃の糸口をくれる。
「ふむ、なかなかだな、これを見せてやろう」
『縮地』
「えっ?」
「は?」
狼達が消え、セナの首が飛んだ。
セナがいた場所には刀を納刀した状態の朱那さんがこちらを見ている。
「アーツと呼ばれるものだ、私を超えれた時、きっとあなたにも使えるようになる」
セナと同じように俺の首も吹き飛んでしまった。
完全敗北、傷1つつけることができずにこの戦いは幕を閉じた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます