第36話
空から降ってきたそれはサイクロプスを喰らい始めた。
ぐちゃぐちゃと嫌な音を立てながら、血肉を喰らい続けるその姿は嫌悪感を引き立たせ、表記されないレベルが勝てない圧倒的強者だと見せつけてくる。
「やばいっ!」
「逃げるよ!」
俺もセナも一目散に背を向けて撤退する。
敵のレベルが見えない時は主に2つの原因がある、圧倒的なレベルの差がある、もしくは隠蔽系の能力を持っているかだ。
今回に関しては絶対に前者だ、直感で勝てないと悟ってしまうほどには力の差を感じてしまった。
あれが街に行ってしまえば確実に街は壊滅する。
住民を逃がして再建するために備えた方がいいレベルだぞ……
ドゴッ
「まずいっ」
「やばいね……」
サイクロプスを食べて満足したのか目障りな俺たちを殺すためにわざわざ飛んできたようだ。
しっかりと俺たちの退路を塞ぐように回り込んできた、完全に俺たちを逃がすという選択肢はないらしくじわじわと距離を詰めている。
「やるよっ!」
「おう……!」
背後から奇襲した鷹が切り刻まれて死んだ。
ひよこの矢は空中で消し飛んだ。
俺の魔刀も傷をつけることすら出来ずに吹き飛ばされてしまった。
「きゃっ」
「うぐっ」
わざと手加減されているのだろうか?
俺のHPは残り1割ほど、セナも巻き込まれて吹き飛んだせいで残り半分ほどだ。
「ボス一番のりィィ!!」
「俺のだ!」
「イベント上位は俺のもんだぜ!」
他のプレイヤー達も軒並み、俺たちと同じように吹き飛ばされて当たりどころが悪かったプレイヤーは即死してしまっているようだ。
「これ以上好きにはさせんぞ」
「じっちゃん!抑えててくれよな!」
次に来たのは大盾を持ったおじいさんと大剣を持った若い青年の2人コンビがやってきた。
先程までボコボコにされていたプレイヤー達より数段いい装備を身に纏っている。
「ぬぅ!?」
「もう少し!」
「凄い」
「受け止めれるの!?」
何と、大盾を持ったおじいさんは怪物の一撃を受け止めて見せたのだ。
まぐれではなく、その後も何発も攻撃をいなしたり受け止めるなど、本人の技術と装備が合わさって何とか耐え続けている。
「じっちゃん!」
「ふんぬぅ!」
怪物の攻撃をいなしてバランスを崩したところに青年の大剣の一撃が入った。
怪物をしっかりととらえ、叩きつけた地面にはえぐれたあとができ上がるほどの一撃を入れたにも関わらず特にひるんだ様子も見えない。
「なっ!」
「無理じゃったか……」
イラついた怪物の攻撃でその2人すらも、消え去ってしまい生きていた者も距離を大きくとりながらいつでも逃げれるようにと逃げる準備をしている。
そして次のターゲットは逃げ遅れた俺たち2人組だろう。
苛立った怪物はこちらを見てニヤリと笑ったような気がした、真っ黒な毛が逆立ち剥き出しの爪をチラつかせる。
一死報いやろうと刀に手をかけた瞬間、怪物もこちらを殺そうと前へと出てくる。
受け止めたとしても俺の残りHPでは為す術なくデスするだろう。
しかし、リスポーンで街に戻れば住民にここから急いで逃げるように声をかけることくらいならできる。
イベント特別仕様でデスペナ後30分は街から出ることが出来ない、その時間で街の人を逃がして時間を稼ぐために戦えばいい。
「うぉぉぉぉ!!」
決死の一撃は怪物の攻撃を止めることが出来た。
風魔法を刀にありったけのMPを消費して纏わせたからなのかギリギリ耐えれている。
それでも徐々に押し返され、MPももう底が見えている。
「よく耐えたな君、いや、イオリくんだったかな?」
「ギルマス!?」
雰囲気が全く違って一瞬分からなかったがどうやらギルマスの本気の姿らしい。
下ろしていた髪を後ろで括り、前に会った時とは違う赤を基調としたコートを身につけ腰には2対の煌びやかな剣を携えている。
双剣というよりは二刀流という方が正しいのだろうか?
「ふっ!」
俺が全てを注いで受け止めきれなかった攻撃を片手でいとも容易く弾いて、追撃する。
一発二発と攻撃が敵に命中する度に剣が輝きを増していく。
蹴りを織り交ぜた斬撃と打撃の嵐に先程までの苦戦はなんだったのかと言いたくなる程に怪物は押し込まれて行った。
怪物の体には無数の切り傷が付けられあらゆるところから黒い霧のようなものが出ている。
ギルマスのインファイトから命からがらという感じで逃げ出した怪物は大きく吠えると霧となって消えてしまった。
「チッ」
少し何かが残るような終わり方ではあったもののイベントの終了が告げられた。
《イベント》
蠢く邪の欠片
開拓者達の尽力によって街は守られた。
しかし、邪神の欠片に魅入られたモンスターは今もその体を休め新たな機会を伺っている。
この防衛戦の結末はスッキリとはしない、しかし開拓者に邪神の強さを知らしめるためには充分だっただろう。
※イベント詳細ランキングは後日発表されます。
「……終わったのか?」
「……そうみたい?」
釈然としない終わり方だったが、今の力で満足するなという運営からのメッセージなのだろう。
ステータスだけに頼ればこの先キツくなることが多くなりそうだ。
どこかに刀の稽古を付けてくれそうな人が居ないものか。
「イオリくんと……そちらは君のこれかい?」
そう言いながら小指を立てるギルマス。
いつの時代のおっさんだよ!というツッコミはせず否定だけしておく。
「違いますよ」
「え?どういう意味?」
「そうかそうか、それは失礼、私は後処理があるから失礼するよ、まだ残党がかなり残ってるみたいだからね」
そう言いながらどこかへ走って消えたギルマス。
俺たちに出来ることはもうないだろうから街に帰ることになった。
「あっ、イオリくん!回復しないと、HPバーもう見えないよ!」
「え?ほんとだ」
最後のつばぜり合いでHPはもう限界だったらしく数ドット程しか残っていなかった。
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小話
「はぁ〜、疲れた、そういえばギルマスさん?の小指ってどういう意味なんだろ」
イオリとゲームで分かれログアウトした後、気になってギルマスが立てた小指の意味を調べ始めるセナ。
「こ、恋人、愛人……そっか、私たち付き合ってないから……」
そう見られていた事に対する喜びと、否定されたことでまだ付き合ってないという現実がせめぎ合いなんとも言えない気持ちになってしまった。
「いつか、告白するもん……」
そう心に決めて
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昨日は投稿できなくて申し訳ないです。
今日も投稿が遅れたのも申し訳ないです……
理由は単純にいくつかイベントを終わらせた時の結末を用意していてそれにめちゃくちゃ迷っていたからです。
応援してくださっている方はほんとにいつもありがとうございます。
これからも不定期にこういうことが起こるかもしれませんが続けていく予定なのでこの作品をよろしくお願いします。
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