第30話「夏休みの計画」

「ゆっくり休んでくださいね。無理をしてはいけませんよ」

「はい、ありがとうございました」


 私は佐々木先生にお礼を言って、保健室を後にした。今は昼休みになろうとしている頃だ。教室に戻ってお昼を食べようと思った。


 ドキドキしながら教室に入る。また中等部出身の女の子たちに何か言われるかと思ってしまったが、何か話している姿は見えたがこちらに来ることはなかった。よかったとほっとしている自分がいた。


「――小春、戻って来て大丈夫?」


 ふと声をかけられた。見ると涼子と凌駕くんがいた。


「あ、うん……なんとか大丈夫。朝はありがとう……また迷惑かけてしまった……」

「ううん、気にしないで。全然迷惑なんかじゃないからさ」

「そうだぞ小春、気持ちは分かるが、気にしすぎるのもよくないぞ」

「う、うん……ありがとう」

「……よし、小春も戻って来たことだし、ご飯一緒に食べますかー」


 いつものように三人でご飯を食べることにした。


「あ、小春、午前中の授業のノート、また写真撮って送るな。すまん、俺もバタバタしててまだ撮ってないんだ」

「あ、ううん、いつでも大丈夫……いつもありがとう」

「……ふふふ、お二人が仲がいいと、こちらも嬉しくなりますなぁー」


 涼子が私と凌駕くんのやりとりを見て、ニヤニヤしていた。そ、そうだ、涼子には私の気持ちを伝えていたのだった。急に顔が熱くなってしまった。


「な、何言ってんだよ涼子、い、いつも通りだろ……?」

「まーそうなんだけどさ、そのまま仲良しでいてほしいなーなんて思っちゃうわけさ」

「な、何なんだ……変な奴だな」

「ふっふっふー、そんな頑張ってるお二人にいい話がありますよぉー」


 急にそんなことを言う涼子だった。い、いい話……?


「い、いい話……って?」

「なんていうかさ、私たちもうすぐ夏休みじゃん? 遊ぶ時間もあるってことよ! というわけで、この三人でどこかに出かけないかなーって思ってさ」

「お、おお、遊びに出かけるのか……ま、まぁ俺はかまわないけど……」

「凌駕は決まりだね! 小春は行けそうかな? あ、もちろん体調は優先で、きつかったら先延ばししてもいいからさ」


 そう言った後、涼子がそっと近づいて来て、


「……凌駕と二人きりだとさ、小春も緊張するかと思ってね」


 と、小さな声で言った。


「……あ、い、いや、その……」

「ん? 二人とも何話してんだ?」

「ああ、いやいや、女子の秘密の話ー。小春はどうかな?」

「あ、う、うん、私も行きたい……ちゃんと元気に行けるように頑張る」


 もしかしたら体調がよくない時があるかもしれないが、夏休みで少しは気分が楽になるかもしれない。それにもしきつくても二人は合わせてくれそうだなと思った。

 ……私も、高校生の女の子らしく、友達と遊んだりしたい。その気持ちは大きかった。


「よっしゃ、決まりだね。あ、でも凌駕は勝ち進めば夏の大会があるってことか、凌駕、負けてきて!」

「お、おい、それはひどくねぇか? ちょっとスケジュール見るから待ってくれ……あ、七月二十六日の金曜日なら、試合もないし行けそうなんだが、二人はどうだ?」

「ああ、うん、私も大丈夫だよー。小春は通院とかない?」

「あ、通院はその前の水曜日だから……うん、私も大丈夫」

「よし、じゃあその日にするか。どこ行くか決めておかないとなぁ」

「そうだねぇ、身体を動かすもよし、映画を観るもよし、何か食べに行くもよし、なんか楽しいことみんなで考えておこうかー」


 二人はそんなことを話しながらぱくぱくとお弁当を食べていた。あ、わ、私も食べないと……。

 でもそうか、ここ最近は三人で出かけるなんてこともなかったなと思った。凌駕くんも部活があるし、涼子はお家のことで忙しいし、私はこんな状態だし、なかなか難しいのは仕方ないかなと思った。


「そういえばさ、小学生の頃、三人で秘密基地作ろうって言って、学校近くの裏山にいろいろなもん持って行ったの覚えてるか?」

「ああ、あったねぇそんなこと。夜遅くなっちゃって、三人とも親に怒られたんだっけ」

「あ、私も覚えてる……怒られたけど、楽しかった……」

「ああ、なんか三人で遊ぶっていうと、ふとそんなことを思い出してしまったよ。まぁさすがにこの歳では秘密基地なんて夢はねぇんだけどさ」

「まぁそうだねぇ、あの頃は純粋だったねぇ。ああ、私のピュアな心はどこに行ってしまったのか……」

「あ、あはは、あの頃も楽しかったし、今もこうして三人でいるのが楽しいっていうか……よかったなって思うよ」


 私がそう言うと、二人がうんうんとうなずいた。


「うんうん、小春が前向きなこと言ったねぇ。いいことだよー。三人の友情は変わらないもんねぇ」

「おう、なんか恥ずかしい気持ちもあるんだが、また楽しいことしような」

「う、うん、私もちょっと恥ずかしくなっちゃった……けど、夏休み、楽しみにしてる……」


 昼ご飯を食べながら、懐かしい話をしたり、これからの話をしたり、私は楽しかった。

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