第18話「テスト勉強をする三人」

 うちの高校のテストが近づいてきた。

 凌駕くんがテスト前で部活は朝練のみになり、午後は休みだと言っていた。今日は涼子と凌駕くんと三人でテストのために勉強をしていこうという話になった。


 勉強は私たちは小学生の頃から、涼子、私、凌駕くんの順になることが多かった。まぁそれでも成績は近いものがあり、よく一緒に勉強をしていたのを思い出す。鉛筆からシャーペンに変わる頃、凌駕くんが嬉しさのあまりシャーペンを壊していたっけ。


「よっしゃ、勉強するかー。あー高校でもテストがあるんだもんなぁ、ちょっとしんどいな」

「はいはい、凌駕は野球ばっかりやって、野球バカにならないようにね」

「なにぃ!? バカじゃねーぞ! くそぅ涼子には負けん!」

「ふっふっふ、私も凌駕には負けないもんねー!」


 なぜかライバルのようになってしまう二人を見て、私は笑ってしまった。


「あ、小春が楽しそう。でもちょっとバカにしたでしょー」

「ご、ごめん、そんなつもりはなくて……」

「あはは、小春が楽しそうなの、俺は嬉しいぜ」

「ほんとほんと。あ、話してないで頑張りますかー」


 放課後、教室に残っているのは私たちだけみたいだ。机をくっつけて、三人で勉強をする。


「おい涼子、ここなんでこんな答えになるんだ?」

「ああ、こっちの式を展開して、こうなるから……」

「ああ、なるほどな! さすが涼子だなー、俺が勝つのはやっぱ無理かも……」

「始まる前から何弱気になってんのよ、しっかりしなさいよー」


 そう言って涼子がバシッと凌駕くんを叩いた。それを見て私はまた笑ってしまった。


「小春はー? 分からないところない?」

「あ、こ、ここがちょっとよく分からないかも……」

「ああ、左辺にこれがあるからさ、こうなって……」

「あ、なるほど……涼子はさすがだね、家でも勉強してるの?」

「まぁ、そこそこかなー。弟や妹に勉強しなさいって言ってるから、お姉ちゃんが勉強しないってのも示しがつかなくてねー」

「おお、さすがだな、俺なんて兄貴に『野球頑張ってるか』しか言われないなぁ」

「あはは、凌駕のお兄さんも野球一筋だったよね、今大学生だっけ」

「そうそう、大学でも野球やってるよ。まぁ楽しそうだからいいかな」


 凌駕くんには四歳年上のお兄さんがいる。お兄さんも身体の大きな人だったな、私たちが小さい頃はよく遊んでもらった。

 そんな感じで数学を進めた後、英語の勉強をすることにした。


「あー英語マジで分かんねぇんだよなぁ。俺日本人だからさー」

「はいはい、凌駕は文句言わない! 日本人でも英語できないと将来恥ずかしいよ」

「マジかー、なぁ、この文章なんて訳せばいいんだ?」

「ああ、ここに過去完了があるから、こうなって……」


 涼子と凌駕くんが話しながら勉強しているのを見て、私はふと気になったことを訊いてみることにした。


「涼子も凌駕くんも、昔から仲がいいけど、その……お、お互い好き……なの?」


 私がそう言うと、しばらくシーンとなった教室だった。あ、あれ? 私なんか変なこと訊いたのかな。


「あははは、小春何言ってんのよー! それって恋心ってこと?」

「あ、う、うん……」

「あはは、恋心かっていうと違うのかなぁ、まぁ友達としては好きなんだけどさ」

「そーそー、ただでさえ『りょうこ』と『りょうが』って、なんだか似たような名前だしさー、まぁ友達としては尊敬してるけどさー」

「あ、そ、そっか……ごめん、変なこと訊いてしまった……」

「いやいや、全然かまわねぇけど、小春が恋の話するなんてめずらしいな。何かあったのか?」

「い、いや、今恋愛小説読んでるから、ちょっとそれに影響されたのかも……」


 な、なんか急に恥ずかしくなってきた。顔が熱い。


「ふふふー、小春も年頃の女の子だねぇ。いいねぇ、小春も恋をしてもいいんじゃないかなー、あ、こちらにいらっしゃいます凌駕さんなんていかがでしょう? スポーツができて、カッコいいと思いますよぉ」

「……ええ!? あ、い、いや、その……」

「りょ、涼子何言ってんだよ、ああほら、勉強しないといけないだろ、勉強勉強……」

「あれぇー? なんだかお二人ともまんざらでもない感じですなぁ! うんうん、いいと思うよぉー」

「や、やめろ……! 小春、ごめんな、へ、変な話になっちまって」

「あ、い、いや、大丈夫……」


 ますます顔が熱くなった。そして凌駕くんをまっすぐ見れなくなってしまった。うう、涼子が変なこと言うから……。


「で、でも、私なんかが恋をしていいのかなぁ……こんな心と身体だし……」

「あったりまえだよー! 小春、恋をするのは自由だよ。誰かを好きになること、とても大事なことだと思うよ」

「そ、そっか、なんか恥ずかしいけど、そんな日がくるといいな……」

「うんうん、あ、ごめんね勉強しないとね、分からないことあったら訊いてね」


 き、気を取り直して、私たちは勉強をすることにした。誰かを好きになる……か。涼子の言う通り、大事なことなのかもしれないなと思った。

 

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