小さな春をつかまえて
りおん
第1話「異変を感じたのは」
自分がおかしいと感じたのは、少し前からだった。
心ここに在らずという感じで、ふっと意識が遠のくこともあれば、そんなことを全く感じず、普通に動けることもある。
心が重い、とでもいうのだろうか、表現が難しかった。風邪を引いたわけでもないのに、身体が重くて動かない時もある。でもずっと動けないというわけでもない。
そんな感じで自分でもよく分からないので、誰にもそのことは言えなかった。たまたまストレスかなにかできついだけだろうな、そんなことを思っていた。
でも、先日朝から起き上がれない時は、さすがにダメだと思って、私を起こしに来たお母さんに伝えた。ここのところ心と身体が重いと。お母さんはすぐに高校に連絡してくれて、その日は休むことにした。
私のことはお母さんからお父さんに伝わり、学校を休んだ日の夜、三人で話すことになった。
「……
いつも物腰が柔らかく、優しいお父さんが私の目を見てゆっくりと話しかけてきた。
私、
幼稚園、小学校、中学校と、特に変わったことはなく通ってきたと思う。しかし高校に入って、環境が変わって気になることがあった。クラスで活発な方の女の子たちに、ちょっかいをかけられるようになったのだ。最初は笑って過ごしていたが、だんだんと笑えなくなってきた。
物を隠されたり、悪口を言われたり、椅子に画鋲がくっつけられていたこともあった。私は性格上言い返せず、抱え込むようになった。きっとからかっているだけだと。強く言うとあの子たちがかわいそうだと。
でも、抱え込みすぎたのか、だんだん自分がおかしいと感じるようになった。心と身体が重い。朝から動けないなんて、病気でもないのに学校に行けないなんて、自分がおかしいと感じているはずなのに、出てくるのは申し訳ない気持ちだった。
「……あ、その……いつからってよく分からないんだけど、少し前からかな……」
「……そっか。小春、お父さんとお母さんに隠していることはないか?」
お父さんにそう言われて、私はドキッとした。自分が学校で受けていることは話せなかった。それも自分の性格である。でも、私は隠しきれないと思って、全て話すことにした。
お父さんとお母さんは何も言うことなく、じっと私の話を聞いてくれた。言葉に詰まりながらなんとか話せた……と思ったら、
「……そうか、ごめんな小春、お父さんもお母さんも、小春のことに気がついてあげられなかった」
と言って、お父さんが頭を下げた。え? え? 私は少し混乱してしまった。
「小春〜よーしよし、私の小春がそんなきつい思いしてたなんて……お母さんは小春の味方だからねー、あ、お父さんも」
「ついでのように言うのやめてよ、お母さん。まぁそんなツッコミはいいとして……小春、お父さんから提案があるのだが……ここの病院に行ってみないか?」
お父さんがポチポチとスマホを操作して、あるページを私に見せてくれた。そこには『
「お父さんの会社でもここに通っている人がいてね、聞いた話だと院長先生が話しやすくていい人らしいんだ。ああ、無理にとは言わない。小春が行きたいと思ったタイミングで、お父さんとお母さんに言ってくれたらいいから」
「うんうん、まぁ小春の気持ちが一番大事だからねー、行く時はお母さんも一緒に行くよ。でもお父さん、こういうところって予約が必要なんじゃない?」
「ああ、予約はいるから、小春が行きたいと思ったらすぐに電話してみるよ。どうかな、今すぐ決めなくてもいいけど、あまり難しく考えなくていいからね」
二人が話しているのを聞きながら、私はお父さんのスマホを見ていた。院長先生が橘さんというのか、写真も載っていて、男の人だった。お父さんよりは若そうに見える……? あまり変わらないくらいかな? 笑顔が優しそうな印象を受けた。
「……うん、う、うまく話ができるか分からないけど……行ってみよう……かな……」
「……そっか、分かった。病院にはお父さんが電話しておくよ。少し待つことになるかもしれないけど、それまで小春は無理をしないこと。学校も休みたい時は休んでいいからね」
「そうよ〜、学校は行ける時でいいからね、きつい時は言いなさいね、学校には連絡するから。あ、休んでお母さんとデートっていうのもいいわね」
「……そ、それはどうかと思うけど、わ、分かった……」
「……よし、今日はこの話はここまでにしようか。病院のサイトのURL、小春に送っておくね」
その後、お父さんが送ってくれた病院のサイトを部屋で眺めていた。橘メンタルクリニック……か。私はどうなってしまうのだろうかと、不安な気持ちは両親には言えなかった。
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