第13話 戦闘狂
今日も清々しい朝だ。小鳥のさえずりで目が覚めて時計を確認すると午前6時ぴったり。またアラームが鳴る前にしっかり起きることができ気分がいい。まあアラームに意味なんてないんだけどね。
「おはよう。今日も早起きね」
「おはよう。キミもね」
同じ場所に一緒に暮らしているみきちゃん。今日も寝グセを水で整えている。
「ねえ、ここなおった?」
「いやー…悪化してる。」
みきちゃんの猫っ毛は本人同様頑固……ごほんごほん。とってもクセが強い。水なんかじゃすぐにもとに戻ってしまう。
「前はちゃんとスプレーとかアホ毛止めとか持ってたんだけどね」
「まあ、没収されたよね。僕も電子機器なんかは根こそぎ持っていかれたし。」
僕とみきちゃんは耐性があるから保持していても感染しない。…バクテリアの蔓延る世界に生まれてしまった。感染すればほぼ死。完治する前に体が弱りそのまま寝たきり。肉も骨もバクテリアに喰われ、蝕まれる。
僕たちはそれに感染しない体らしい。いや、正確には感染はすでにしている。ただ、症状が出ない。つまりこのバクテリアに耐性があるらしい。すでに僕たちの血液からできた抗体がこの隔離された研究所で作られたらしい。でもかかってしまえば治療法がなく死人が増えるばかり。まあそこは問題ではない。今まさに、僕たちはこのバクテリアに侵食されている。症状がないだけで。だから隔離されている。本土から遠く離れた離島。とある研究室の隔離部屋で厳重注意されている。
僕が暮らしていたのはザ・都会。高層ビルが立ち並ぶ、まさに首都と言える国の中心地。そこにそびえる高校の一般生徒。みきちゃんはクラスメイト。隔離されているはいえもう様々な実験もしたし血も散々取られた。いよいよ治るのを待つだけとなった。暇なのである。食事も自動で出てくる。家具に数冊入っていた読み切り短編小説も何巡もした。隔離施設の影響で電波を発する機械の持ち込みが制限されてスマホやらパソコンやら持ち出した電子機器は回収。外の情報が一切わからず暇。
アラームが鳴る。もちろん起きているので時間の間隔がわかるようわざと鳴らしている。
「おい、お前ら検査だ。これで陰性だったら帰れるぞ」
「まじか?」
「やっと帰れるのね」
そうして検査。血圧測みたいな感じで腕に通すタイプ。みきちゃんも同じものだ。
「お、陰性だな。帰ってよし!預かってるもの返すな」
そこから本土へ船に乗り荷物を積んで出航。
早々にスマホを取り出しアプリを起動。久しぶりの感覚に懐かしさを覚えた。
「やっと…はあ長かったー」
「いや、それな。でもさっきの研究員が言うには俺たちのおかげで抗体ができたらしいからある意味ヒーローじゃね?」
「あ!確かに!みんなに早く会いたいな」
見えてくる本土の影。港。人だかり。カメラ。
「ねえ、あれ…」
「普通にやばくね」
内心はとってもわくわくしていた。自分たちが多少でもこのバクテリアの対抗手段になったのだから誇らしくもあった。しかし、想像とは違う反応だ。どういうことだ。
“バクテリアは降りてくるな”
“戻ってどうぞ感染源”
「え?」
「なんで…」
外の情報はいっさいわからない。ただ歓迎されていないことは確かにわかった。
船が港に着く。錨を下ろし地上までスロープができた。とりあえずカメラを無視で降りてみる。
「すいませんテレビ〇〇中継です!長旅ご苦労のところ質問しますね」
……。
「なぜバクテリアを保持しながら隔離施設を出てきたのですか?」
…?言っている意味がわからない。さっき陰性だったから、家に帰っていいと言われたから帰っただけ。なぜこんな大事になっているのだろう。
「僕たち今検査をして陰性だったから出てきたんです。隔離されていてテレビなんかも見ていないのでそれ以上の詳しいことはわかりません。」
「ではでは…軽く説明すると、君たちの施設で使われていたその検査の方法が今よくなくてね。しっかり血液検査を行ってくださいと言う国民の怒りでメディアが動いてね。」
「確かに検査は腕を通すあれでしたけど、あんな横断幕まで貼る必要あるんですか?」
「いや仕方ないじゃないですか(笑)あなたたち感染者でしょ?僕も感染っちゃうので早く終わらせたいんですけど。」
数本マイクを向けられたがまさにその質問で押しつぶされ。後でわかったが、毎日僕たちの泊まっていた隔離施設は上空にヘリが巡回し僕たちが出てくる日を待っていたらしい。テレビもネットもバクテリアのことでもちきりでスポーツ大会も世界のお茶会も国民の耳には届かない。僕たち感染者が隔離施設から出てバクテリアを撒き散らすのではないかと“デマ”が広まっていた。それも全土に。
「あの…抗体は?」
「へ?あーあのことね。あれは科学根拠が証明されなかったから許可できなかったよ。ほんと、何を研究してたんだろうねあそこ。結果的にやっと治まってきたバクテリアをばら撒くなんて。」
「僕たちがあの施設にいた理由ってご存知です?」
「そんなの、バクテリアに感染したからだろ。必死に延命治療でも受けてたのか。それも国税でな」
みきちゃんがやさしく肩を撫でる。
「ねえ、もういいよ。無視しよ?ね?」
そう。気にしなければいい。何の事情も知らないで。人の気も知らないで。勝手に“国民代表”を語っていればいい。
…いや、なんで僕たちが悪者みたいになっているんだ?国から隔離されると通知があったから大人しくしていただけ。言うこと聞いて悪人扱い。なんでだ。隔離された挙句研究にも応じた。抗体もできたのにこの始末。研究の成果や抗体の効果なんて知らない。でもその事実があって世間も知っているのにまるっきり悪者扱い。これじゃああまりにも……。
「だめっ。こんなことで激昂したら余計悪者だよ。お願い、落ち着いて」
「わかってる。…頭はちゃんとわかってるんだ…そのはずなんだけど…ね」
「ねえねえ、イチャイチャ中申し訳ないけどさ。実際どうなの?隔離生活とかどんな感じだったの?」
…。
「黙ってたらわからないよ?ねえねえ、あの認証されなかった抗体について知ってることがあれば答えてよ。」
……。
「実験とかされた?どんな内容だったの?」
ごめんみきちゃん。
「ひとつだけ言わせてください」
カメラが一斉にこちらを向く。カメラのフラッシュがうざい。
「僕たちは犯罪者じゃありません。今までなにをしていたのか話す気はありませんし、だからここに正しい情報を届けてくれるメディアはいません。」
僕はみきちゃんの手を引いて早足でマスコミの網を抜けた。もっと言いたいことはいっぱいあったけど、これ以上は話したら不利になるのでやめた。
地上からは車が出ていてそれも事前に説明されていた。国もこうなることは予測済みだということ。
「ごめんね。ちょっと無理だった」
「いや仕方ないよ。むしろ抑えてくれたほうでしょ?」
「うん。今後のことを予測してね…。もうあらかたその事項についてはまとまってるよ」
「え?まさか本当に…」
「もちろん。戦うに決まってる。めちゃくちゃにされたんだ。世間の評価よりこっちの生活だろ」
抗体があることをいいことに僕は堂々立つことができる。もろもろ書類をまとめたら今まで書き溜めていた日記と実験内容を記したノート、こっそり持ち出した録音機…まだあるけどこれでも十分じゃないかな?いやーワクワクしたきたなあ。国相手に“戦える”なんて…!
みきちゃんは血の気の引いた顔をしていたけれど君にも協力してもらうよ。大事な大事な証人だもんね。
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