流れに逆らう二人

月井 忠

一話完結

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。


 ショットガンを構え、小屋を見張る男の背中に狙いを定め、ゆっくり近づく。


 ドンッ!


 音と同時に男は倒れ、血を流した。


 すぐに小屋に近づき、今度は木戸に向かって銃を放つ。


 ドンッ!


 南京錠は壊れて落ちた。


 扉を開ける。

 中は薄暗い。


 手近にあった木箱の蓋を開ける。

 僅かな光を反射して、鉱石は黄金の輝きを放った。


 蓋をして木箱を小脇に抱える。

 かなり重い。


 だが、持って走れないこともない。


 木戸を少しだけ開けて、外を窺う。

 やはり、こちらに人を割いていないのだろう。


 今頃、村は大混乱だ。

 採掘キャンプにまで人を回す余裕はない。


 すぐに走って、山道を駆け上る。


「ふぅ」

 山頂にたどり着くと足を止め、麓の村を見下ろす。


 ちょうど砂煙が村に到達していたところだった。

 砂煙の先頭にいるのは、バッファローだ。


 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがそこにあった。


 もちろん、バッファローが自ら望んで村を襲うことはない。

 私は更に遠くに目を凝らす。


 そこには、馬に乗りバッファローを追い立てる、我が同胞たちの姿が見えた。


 ドンッ! ドンッ!

 彼らの放つ銃声が、ここまで響いてくる。


 反対に村の方でも、開拓者たちが集まって来た。

 手にした銃を構え、同胞たちに向かって撃ち始める。


 ゴールドラッシュなる物が始まり、私たちの土地は奪われた。

 それに対する、幾度目かの抵抗を示す戦い。


 私はそんな争いに嫌気が差した。

 これ以上、奪われるのもまっぴらだった。


 だから私は、開拓者たちから鉱石を盗むことにした。


「ブラック!」

 背後から声がして、振り向く。


 そこには一人の女性が立っていた。


「大丈夫だ……行こう」


 私が盗んだのは鉱石だけじゃない。


 開拓者である彼女の両親が、私との結婚を望まないのは明らかだ。

 だから奪う。


 今もゴールドを求めて開拓者は東から西にやってくる。


 私たち二人は逆に西から東へ向かう。


 資金は十分だ。

 抱えた木箱はとても重い。

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