Law of attraction
「引き寄せの法則?」アレックスにも聞き覚えのある言葉ではあったが、リンダの意図は見えない。
リンダは立ち上がり、ハンガーにかけてあったアレックスの上着から、量子論の本を取り出して戻ってきた。
「そう、あなたの世界にも同じ本があったのね。読ませてもらったわ。でも、内容はちょっと違ってた。残念だけどこの分野においては大分遅れているみたいね」
「引き寄せの法則というのは、ポジティブに考えれば良い事が置き、ネガティブな思考は悪い出来事を引き寄せるということだろ? 宗教っぽいけど、量子論の中では肯定されているということくらいは知っている」
「基本的な話はそうね。そこで私は願い続けたの、あなたに会えるようにね。勿論ただ単純に願っただけじゃないんだけど、そこは重要ではないわ。そして実際あなたに会えた」
「話が見えない。いいかい? 僕は仕事で君をケンブリッジに残し、ロンドンに移った。そして、君はケンブリッジで起きた大地震で、……命を落とした」
しばし沈黙が流れる。タバコから灰が落ちた。リンダはタバコの火を灰皿で消すと、ゆっくりとアレックスに視線を移した。
「そう、やっぱり私は死んじゃったんだ」
「どういうことだ! 君はリンダじゃないのか?」
「落ち着いて、私はリンダよ。そうね、結論を言うとここは
アレックスはワイングラスを手に取り、一気に流し込んだ。
「本の中にもシュレディンガーの猫ってあったでしょ? 生きている状態、死んでいる状態、その他の状態が色々重ね合わせられて同時に存在しているの」
「もう一本いいかしら?」
リンダはタバコの箱を手に取るが、何も言わないアレックスを見て、静かに戻した。
「パラレルワールドは共通する部分も多いんだけど、ところどころ違いがあるの」
信じていたわけではないが、アレックスにはパラレルワールドについて、いくらかの知識があった。パラレルワールドから持ち帰ったというリヴァプール出身の世界的に有名なロックバンドのカセットテープ音源も動画投稿サイトで聴いたこともある。だが、結局のところそれは既存の曲を切り貼りしただけにしか思っていなかった。
「こちらの世界では、……」リンダが言いにくそうに口を開く。
「死んだのはあなたなの、アレックス」
「バカな!」
「本当よ、お願い最後まで話を聞いて。あなたの世界の私が何をしていたのかは知らないけど、こちらでの私は量子学の権威なの」
「僕の知っている君はただの量子マニアだったよ」
「そう、でも量子に関心を持っていたという共通点は興味深いわね」リンダはワインを一口含んだ。
「あなたは、こちらでもロンドンへと移った。そして大地震が起きたのはロンドン、そこであなたは命を落としたの」
「信じられない」アレックスは首を振った。
そんなアレックスを気にも止めずリンダは続ける。
「地震がきっかけでパラレルワールドの入り口が開くなんて話聞いたことない?」
「確か日本で震災地に向かうボランティア団体がパラレルワールドに迷い込んだなんて話があったけど、所詮都市伝説だろ?」
「私はその話の信憑性を判断する立場にないけど、そういったことは起こり得ると私は研究の中で確信したの」
「続きを聞かせてくれ」
「私はこちらでの長年の研究と併せて、引き寄せの法則を実践したというのはさっき言ったわね。そして実際こうしてあなたとの再会を果たした。あなたがパラレルワールドの入り口に立ったのは決して偶然じゃない。引き寄せられたの」
「そんな、願ったくらいで、……」
「それだけじゃないの。その地震によって、自発的に対称性が破れたのよ」
リンダはワインのボトルを手に取り、アレックスの正面に置いた。
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