危険な贈り物 = 天使と死神の物語=
あきこ
第1話 危険な贈り物(前編)
早瀬良平には三分以内にやらなければならないことがあった。
"システムが起動したようだ。残り3分、頼むぞ良平”
良平は骨伝導イヤフォンになっている特殊な
このメガネから音が出ているのは他の人には分からないので、現在良平が通話中なのは目の前の直美にもバレていない。
直美は機嫌良さそうな可愛い笑顔で、目の前にあるデザートをまるで芸術品でも鑑賞するように眺めている。
「すごく綺麗で美味しそうだわ!」
直美が嬉しそうに言った。
途端、良平はぎくりとして顔色を変えた。
同時に骨伝導イヤフォンから佐々木の叫び声が聞こえて来る。
「おい、今の言葉がエラーではじかれたぞ! あと4回違う言葉を話したらロックがかかる!」
佐々木の叫び声の後、続けて優の声が聞こえた。
「良平、直美に余計なことを話させるな。3文字以上の言葉を言う前に止めろ!」
無茶言うなよ……
良平は苦笑いしながら口に出さず心の中でつぶやく。
今日は直美の誕生日だ――
それで、前から直美が一度は来てみたいと思っていたと言う、あるホテルの有名フレンチレストランに直美と良平は来ていた。
ふたりはめったに食べる事のない高級フレンチを楽しんでいたが、そこに爆弾という嬉しくない誕生日プレゼントが届いているという連絡が良平に入ったのだ。
そして――
面白くもない3分間のゲームがスタートした。
ちくしょう、おかしいとは思ったんだよな……
半年先まで予約で埋まっていると言われている人気店なのに、一週間前に電話して簡単に予約が取れるなんて……
そんなラッキーな事、そうそうあるわけないと怪しむべきだった。
でも、まさかここまで手の込んだお遊びを仕掛けて来るとは思わなかったぜ、本当に性格の悪い兄貴らしい。
うかつだった自分に反省しながら、良平は心の中で呟いていた。
~~*~~
早瀬家と吉良家は平安時代から続く旧家で、昔から政府の依頼を受け、裏の仕事を請負い処理してきた一族だ。
現在も3S(Special Ssecret Service)という名称で呼ばれ、日本政府から表には出せないような仕事の依頼を請負っている。
つい最近、業界No.1と言われていた早瀬3Sが、良平の兄である早瀬剛によって襲撃され壊滅に近い状況に陥った。
しかし良平は早瀬は終わらせないと言い、婚約者、吉良直美の実家である吉良3Sに協力してもらい、早瀬3S再興に向けて頑張っている。
早瀬襲撃犯の剛は、早瀬や吉良が捕まえようと捜索しているが、国外に逃げた後は居所がつかめていない状況だ。
剛が協力者とともに自分の家を襲い壊滅しようとしたのは、弟の良平に対する強い嫉妬心によるものだろうと分析されている。
剛が良平に強い恨みを抱くに至った理由は二つだ。
父親である早瀬の当主から、早瀬の次期当主は次男の良平にすると宣言され、自分は勘当されて家を追い出されてしまったという事と、吉良家の娘である吉良直美が自分より良平に思いを寄せているらしく、親の話し合いで、直美と良平の結婚の話が具体的になった事だ。
だが、どちらも逆恨みのようなものだった。
嫡男であるはずの剛が家を勘当されたのは、大怪我をしたことがきっかけで悪い薬に手を出しはじめ、薬に溺れたからだ。
それから直美に関しては、確かに剛は直美が小学校の時から直美に懸想して直美に優しく接していたが、直美の方は自分が12歳の時、すでに18歳だった剛の事を恋愛対象として見る事はなかった。
それに吉良家は婿養子を望んでいたので、親たちは次男の良平を直美の相手に選んだという家の事情もあった。
しかし剛はそれらを受け入れることが出来ず、良平に強い嫉妬による恨みを抱いていた。その結果、殺し屋に良平の暗殺を依頼したり、良平の購入したマンションを銃撃させたりと、色々と仕掛けて来るようになった。
そして今回も、剛は笑えない危険なゲームを仕掛けて来たのだった。
~~*~~
<一週間前>
「あのお店のフレンチコースを誕生日に食べに行くのが昔からの夢なのよ!」
直美は目をキラキラ輝かせて言った。
良平はそんな直美をみて苦笑する。
直美は、自分の誕生日の一週間前になって、誕生日の日に高級フレンチを食べさせろと良平に要求してきたのだ。
堂々と誕生日を祝えと訴えて来るところは、直美らしいと言えば直美らしい。
良平はそんな人気店、一週間前に予約とれるとは思えないと言いながらも電話をしてみると、たまたまキャンセルが出たらしく、ラッキーなことに予約が取れたのだった。
予約が取れただけで直美は舞い上がり、家に帰ると父親や優だけでなく、佐々木達にも「良平が予約をとってくれたの」ととても喜んで話していた。
そんな嬉しそうな直美をみて、良平を含め、周りの人間もなんだか嬉しい気分になっていたのだ。
~~*~~
そして直美の誕生日の当日になった。
良平と直美は佐々木と優に車でホテルまで送ってもらい、フレンチレストランにやってきたのだった。
元々は佐々木さんだけで送り迎えをしてもらう予定だったのだが、なぜか優もついて来たのだ。
彼らはホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら直美と良平の食事が終わるのを待ってくれるらしい。帰りも送るから気にせずアルコールを飲んでいいぞと声をかけてくれた。
~~*~~
グラスシャンパンが運ばれてきて、良平はグラスを直美の方に軽く掲げた。
「誕生日おめでとう、直美」
「ありがとう」
ふたりはグラスに口をつけた。
食事がスタートし、直美は運ばれてきたアミューズを見て目を輝かせる。
直美はにこにこしながら添えられたスプーンを持ち、小さなグラスの中のムースをすくって口に運んだ。
「美味しい。しあわせ」
直美は本当に幸せそうな表情をして言う。
その表情を見て良平は自分も幸せな気持ちになった。
良平が頼んだ白ワインのボトルが運ばれてきて、それぞれのグラスにワインが注がれる。
直美はうれしそうに、グラスにワインが注がれるのを見つめている。
両方のグラスに白ワインが注がれた後、良平と直美はグラスを持ち、もう一度乾杯をする。
直美と良平が白ワインに口をつけていると、次のオードブルが運ばれてきた。
オードブルの見た目はとても鮮やかで、直美はまずその美しさを眺めて楽しんでいるようだ。
「手をつけるのがもったいないわ。崩したくなくなっちゃう」
直美はそんなことを言いながら笑顔を良平に向ける。
「そうだな、ほんとうにフレンチって目でも楽しめるよな」
良平が同意してそう言うと、直美は嬉しそうに大きく頷いた。
オードブルを十分眺め終わった直美はナイフとフォークを手に持ち、ゆっくりと料理を崩して食べ始める。
良平も直美が一口目を口に入れたのを見て食べ始めた。
次のスープはヴィシソワーズ。
直美は大事そうにスプーンにすくって食べる。
「んんん! わたしこれ大好き」
一口食べてから直美は極上の笑みを見せて言った。
本当に幸せそうな顔だ。
サラダとパンがテーブルに並べられた。
直美はサラダに手をつけるが、これは少し食べにくそうだ。
直美は海外旅行に行った時の話を楽しそうにしながらゆっくり食事を進めている。
良平は直美の話を笑顔で聞き、時折相槌を打ったり、自分の時はどうだったとか話して聞かせたりする。
良平の食事のペースは直美より少しはやいが、それなりに直美を意識して直美のペースに合わせて食べていた。
直美は白ワインのグラスを手にして、口に運び一口飲んで置く。
「でね、フィッシャーマンズ・ワーフで自転車をかりてゴールデン・ゲート・ブリッジを渡ったの。わたし、ゴールデン・ゲート・ブリッジで自殺する人が多いって初めて聞いてびっくりしたわ」
「ああ、自殺の名所だからな。飛び込んだら遺体は上がらないらしいよ」
「うん、そう言ってたわ!」
スタッフがワインをつぎにきて、すぐに魚料理が運ばれてきた。
魚料理を見て直美の表情がぱあっと明るくなる。
直美は嬉しそうに魚料理に手をつけた。
良平の前に魚料理が置かれた時、良平の腕につけたスマートウォッチが振動した。
良平は直美に分からないようにちらっと画面に目をやる。
優からのメッセージだった。
今からコールする
直美や周りに気付かれないように骨伝導を使って黙って話をきけるなら電話に出てくれ
無理なら無視しろ、なにか手を考える
「……」
良平は内ポケットに手を入れ、眼鏡を取り出してかけた。
直美がちょっと不思議そうな顔をする。
「良平、目が悪かったの?」
「ああ、あまりよくない。手元をずっと見ていると疲れるんだ」
嘘である。良平はそんな嘘をついて直美に微笑んだ。
程なくして再びスマートウォッチが振動したので、良平は眼鏡のずれを直すふりをして電話にでる。
直美は目の前の料理を食べておいしそうな顔をしながら、旅行の話を嬉しそうに続けていた。
良平はそんな直美を見て微笑みながら自分もフォークとナイフを手にする。
"良平、そのまま落ち着いて聞け、このホテルに爆弾が仕掛けられている"
聞こえて来た言葉に、流石に良平は驚き少し反応してしまった。
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