第10話:過酷な旅路

遂に出発の日になった。

と言ってもあの日から一日、いや一夜しか経っていない。昨日布団に入ろうと寝る準備をしていた時に長の回し者が家にやってきて

「明日の早朝に討伐隊がここを発つことが決まった。なので明日の朝6時には中央の広場に集合するように。」

と言われた。えらい唐突なことだなと驚いたがまあ人の生死にかかわることだしな。後それに加えて、宇宙服も必須だということも厳命された。元々自分は外出するときはこの星に来ていた時に来ていた宇宙服を着ているので大したことではないのだが、その回し者が言うには

「赤嶺山脈付近では同化の進行が極端に速く、1 日 2 日そこにいるだけで人間は死に至ってしまう。だから絶対に宇宙服は着てくるように」

だそうだ。そんな話は初耳なんだが...。宇宙服を着ていたとしても完全に同化を防ぐことはできないが宇宙服を着るか着ないかでは同化の進行スピードは雲泥の差らしい。まあ宇宙服はごついし、動きにくいしで集落の人はそのせいかほとんどつけている姿は見受けなかった。俺だって集落の外に出るとき以外は宇宙服じゃなくて集落から支給された古代の農民とかが着てそうな質素で動きやすい服を着ていた。

まあそんなことはいいとして、今何とか寝坊することなく広場に集合することが出来たのだが……

「おぉ~~~!久しぶり~~ユーギリきゅん~!」

また俺はあの酔っ払いに絡まれていた。


結局あの後さらなる討伐隊への参加を募ったがあれ以降人員が増えることはなく。俺とテトラ、長とそのお付きの人、そして俺の知り合いでもある5人組で総勢9人が集まった。

で、その5人組というのがレンの飲み会メンバーだった。いつの間にかこの人たちが参加していたことにはびっくりしたがここ最近は自分の周りのことで精いっぱいで気づけてなかったんだろうと解釈した。

しかしロックはなんで今も酔っているんだ…?今…朝の6時だぞ……!?徹夜で飲んでいたんだとすると先行きが不安になってしまう。

こんな絡み方をされるなんて……これから生き死にをかけた旅に出ようというのに出鼻をくじかれた気分だ。かといって俺だって緊張していないわけではない。昨日だってろくに寝れなかったし、今も全身が震えている感覚がする。そうなればロックのダル絡みが逆に精神安定剤になっているともいえる。いやまあうざいのには変わりないんだがな。

そうしていつものようにダル絡みを受けているとウッディがいつものように俺からロックを引きはがした。ウッディは「いつもすまない」とだけ言ってロックを引きずって俺から遠ざけた。俺は苦笑いをすることしかできなかった。

「あはは……結構ロックさんと仲いいんだね……!」

横には俺以外にこの状況を見て苦笑いする人がいた。

「一方的に気に入られているというか……あの人がシラフの時を見たことがないから何とも……」

「あはは……多分シラフの時もロックさんはユーギリのことが好きだと思うよ…!笑」

テトラは気まずそうに苦笑いをしていた。そうだったらいいな……。

あれから一夜が経ったわけだが、触れにくいのか昨日のことはまるでなかったかのようにテトラはふるまってきた。まあ俺からしてもわざわざ掘り返す必要はないと思い、今まで通り彼女と接している。まあ俺がタメ口になったという違いはあるが。

そんなこんなしていると少しずつ重みのある足音が聞こえてきた俺とテトラは次第にそれに気づき、振り返るとそこには長がいた。そばにはお付きの人がついている。そんな長は飲み会メンバーへの挨拶を軽く済ませると俺の方に歩いてきて、やがて俺の前で立ち止まった。

「おはよう、ユーギリ君。そしてテトラ。」

「お、おはようございます。」

「今回は本当にありがとう。」

「いっ、いえ……僕の方こそ足手まといにならないように頑張ります...。」

「君なら絶対に力になってくれると信じている。そもそも人員がただでさえ足りない状態だ。一人でもこの討伐隊に参加くらいなのだから本当に君には感謝している。」

昨日の威勢はどこえやら……まあ普通に会話できているだけ成長したかな。でも俺はそんなことより気になることがあった。

「あっ、あと……ベニ b……僕のパーソナルロボットの方は……」

そうベニ坊のことだ。預けてから大分経ったがそれでも1秒たりともあいつのことを忘れた覚えはない。それくらい俺の心の支えとなっていた。長は何かを思い出したように自らの背中に手を伸ばし大きな板のようなものを取り出し、両手でがっしりと持って俺の方へ差し出した。

「はっ……ベニ坊…!!!」

俺は思わず声を上げてしまう。それに呼応するように長の手で支えられていたベニ坊が起動し、宙に浮いた。

「ン?ナンダ?ア、ユーギリカ?」

「あ~!!よかった…!!うまく修理が出来たようで…!」

俺は周囲の目をはばからず、ベニ坊に抱き着いた。肌で感じるベニ坊の感触。機械のはずなのにこんなにも温かみを感じるなんて…!俺は舐めまわすようにベニ坊を抱きかかえた。

「オイ、マジデキモチワルイ、ハナセ、ヘンタイ。」

ベニ坊は必死に抵抗するが俺は離さない。いや離せなかったといったほうが正しいだろう。前まではこんなにもベニ坊のことを愛しく思うことなんてなかったのに…。どうしてこんなにもいとおしく感じるんだろう。一時は嫌悪感を抱くほど印象は最悪だったのに……やはり長い間会っていなかったからだろうか。

そうやってしばらくベニ坊を堪能しつくした後、ふと冷静になり周りを見渡してみた。ありのままを言うと…凍り付いていた。顔が見るからに引きつっており、ドン引きされているのは明らかだった。ここでやっと我に返る。

あれ…?俺がやってたことって、ロックと大して変わらないんじゃ……。そう思うと心の奥底から羞恥心がこみあげてきて、俺の心を一瞬にして支配した。俺はあまりの恥ずかしさに下を向き、その場で縮こまってしまった。そんな最悪の空気を祓ってくれたのは我らの長だった。

「感動の再会は済んだようだな……。それでは出発する前に最後の確認をしておきたい。……いいか…?」

長の言葉で一気に広場には緊張感が走る。俺も恥ずかしがっている場合ではなさそうだ。

「まずはみんな、この討伐隊に参加してくれて本当にありがとう。本当はもっと人員を増やしたかったんだが…まあ仕方ない。皆にだって事情はあるのだ。でも私はこんな逆境の中、自分の命を天秤にかけてでもこの討伐隊に名乗りを挙げてくれた君たちを誇りに思っている。胸を張ってくれ。」

みんな長の話を真剣に聞いていた。いよいよだな……。不安や恐怖感が高まっていくのがわかる。多分みんなもそうだろう。でも俺を含めて討伐隊のメンバー全員が覚悟を決めたようなそんな力強い顔をしていた。

「で、確認なんだがもしこの討伐隊を抜けたいと思うのであれば今ここで帰ってもらっても構わないと言おうと思ったがそれも今の君たちには失礼なような気がするな。でも一応聞いておく。討伐隊を抜けたいと思っている者はいるか?別に遠慮しなくてもいい。俺も咎めたりはしない。周りに左右されず自分の心と話し合って決めてほしい。」

そう長は言い放ったが誰のからだもピクリとも動かない。もう覚悟しきっている様子をしている。さっきまでヘラヘラしていたロックでさえもまっすぐな眼差しで長を見つめていた。俺も長に目を合わせる。

「わかった。皆の意志、しかと受け取った。だがこれだけは肝に銘じておいてほしい。どんな時でも自分の命を一番に守ってほしい。それが私の一番の願いだ。絶対に全員で生きて日の出を見よう。」

こうして俺の短くて長い過酷な旅が始まった。



問題の赤嶺山脈の洞窟までの旅路は想定通りに順調に進んだ。とはいっても近くにあるように見える赤嶺山脈は思いのほか遠く、1 日目は山のふもと部分で野宿をした。そして翌朝、俺が見た景色は想像を絶するものだった。

険しくそびえたつとがった山々。大体 15000m 級の山脈といったところだろうか。ガイアでこれほど高い山を見たことがない。しかもそんな高い山々が地平線のそのまた向こうまで、無限に続いているように見える。山肌が赤く染まっているせいだろうか、山脈は赤々に光り輝いている。純粋きれいだと思える光景だった。ワンチャン銀河三景にも選ばれるんじゃないかとも思える。そう思いながら旅路をす住んでいると件の洞窟に近づいてきた。洞窟に入ってから半日が経っただろうか?洞窟は日の光が入ってこないから正確な時刻がわからない。でも洞窟と言っても窮屈さを感じるほど狭いものではなかった。むしろ開放感を感じるような巨大なホールのような構造だった。天井高は大体 100m くらいあり、天井では光物が光り輝いている影響で大洞窟は洞窟内とは思えないほど明るい。

そして今俺はそんな大洞窟にまたがる頼りなさそうな橋を渡っていた。頼りなさそうな橋といっても人が作った人口の橋ではなく岩石でできた天然の橋だ。橋から下を覗いてみると深淵もこちらを覗いてくる。そんな天然の橋は大洞窟に蜘蛛の巣状に張り巡らされており、橋同士が交わるところには巨大な鍾乳石のような柱が立っており、何十本も立っている柱と大量に張り巡らされている光景はまさに異世界そのものだ。地面に目を向けてみると真っ赤な砂のようなものが積もっていてそのおかげでより幻想的に感じられる。長から聞いた話ではこの洞窟は元々薄い岩石の層があったのだが徐々に崩落していき今はこうして車が通れるくらいの幅しか残っていないということらしい。自然が生み出した奇跡の光景とでもいうべきなのだろうか。頼りなさそうとはいえ思ったよりしっかりとした足場でそこまで恐怖は感じない。まあ奈落を覗いてしまうと全身がこわばってしまうんだけど。

「どう?すごいでしょ…!」

「へ…?あ、うん……。」

俺の突然のテトラの声にびくりとする。この情けない返しだけは早急に治したいところだ。

「本部と集落を行き来するときは必ずこの洞窟を通るから私も何回か通ったことがあるけど何回通っても気分が上がるよね!」

「あー…うん……。」

何回かって...俺はここを初めて通るのでそんな同意を求められても...。まあでも気分が上がるというのはその通りだな。ここまで神秘的なところは宇宙でも見たことがない。

「……もしかして……疲れてる…?」

俺はテトラのその指摘に図星を突かれた。この距離を移動することはこれまで何度かあったがそれは全部ベニ坊ありきの話だ。ベニ坊の上に乗って移動するのがどれだけ快適なことだっただろうか。だが今はそれはできない。

なぜか?...それは今回はほかの討伐隊員と共に行動しているからだ。ほかの隊員が徒歩で移動しているにも関わらず自分だけベニ坊に乗って悠々自適...周りの目は想像を絶するものになるだろう。

「え…!?いや……まあ……ちょっと……。」

俺は歯切れの悪い返事をする。

「もー、頼りないんだから…!まだまだ旅は長いんだからしっかりしてよ…!」

俺は何も返すことが出来ず黙り込んでしまった。本当に...1 日2日歩いただけでこのざまとは...先が思いやられる。

「……おい……あまり気を抜くなよ…。なんせ以前怪物とはここで出くわしたんだから。」

と二人でのたばなしをしているとレンがそう諭してきた。俺は十分緊張感をもっていると思うんだが...まあこんな会話をしているとそう思われるのは仕方ないか...。

「まあいいじゃないか。こういう時にこそ緊張をほぐすことは大事なことだ。」

と今度は長がそう言った。

「それもそうかもしれませんが……」

とレンは不満を残すような相打ちをする。まあ確かに長のあの言い方は楽観的な気もする。隊員同士元々仲が良かったといえどこうも緊迫感があると中々会話が弾まず、ここ最近はずっとこんな微妙な空気感で進んでいた。

「あとそうこう言っている間にこの洞窟の出口が見えてくるだろう。何とか戦闘に巻き込まれずに済みそうだぞ。」

とその微妙な空気を和ませるかのように長がそう言った。今か今かと怪物の襲来に身構えていたが結局何にも出会わずにあっさりここまで来れてしまった。俺の不安はどうやら杞憂に終わりそうだ。

「よかった…!ね…!」

「あ…うん……。」

テトラも心なしか嬉しそうだ。そりゃこの旅で一番の難所を何事もなく突破できたのだから喜ぶのも当たり前だろう。俺は期待に満ちた足取りで旅路を進んでいった。

「ようやっと見えてきました…。出口です。」

長のお付きの人の人声に隊員全体が沸き上がった。俺たちは変わらず奈落の上に蜘蛛の巣のように乱立している橋の上を進んでいた。そしてもう半日さまよい続けた巨大なドーム状の大洞窟も終わりを告げようとしている。そして遠くにはこの大洞窟と比べればちっぽけな洞穴が見える。おそらくあれが出口だろう。

「……やっと……!」

とみんなの気も緩んだであろうその時だった。

「ドォォォーン!!!」

これまで聞いたことのない爆音が洞窟中に鳴り響いた。それと同時に目の前には雲のような砂煙が上がっていた。どうやら僕たちの進路である橋の先は破壊され、崩れ落ちてしまった。

そしてほどなくしてその橋を破壊した犯人が砂煙の中から姿を現した。

そいつは全身は水色に発光しており、幽霊のように透き通ったからだを持っていた。そして奴は蛇、というか竜のような見た目をしており、その体には脊髄のような太い骨のようなものが通っていた。まるで神話にでも出てきてもおかしくないような見た目だ。そしてなんといってもその大きさだ。目の前にいるのもあるだろうが上に首を限界まで曲げても奴のすべてを拝めないくらい巨大だった。全長 30m といったところだろうか。その怪物が今、俺たちの目の前に現れた。

「ウワ、ナンダ? ン?ナンダアレ?」

ベニ坊もあまりの衝撃に感嘆の声しか出ない。

「遂にお出ましか……」

だが長は違うかったようだ。

「ブウォォォ!!!」

そう怪物は咆哮する。あまりの迫力に頭がおかしくなってしまいそうだ。

「よけるんだ…!!」

しかしそんな状況でも長はすぐに平常を取り戻し、そう指示した。

「くっ、岩を楯にするんだ!」

長のその一声に隊員全員が正気を取り戻し、近くの岩場にとりあえず隠れた。俺も例にもれず近くの岩場に身を隠した。

「オイ、ドウスルンダ?」

ベニ坊が俺にそう尋ねてくる。ここまでこいつの声が間抜けに聞こえたことはない。

「へ?あぁ、なんかお前の装備に飛び道具とかってないのか!?」

俺も同じように間抜けな声で聞き返す。周りを見てみたがみんなライフルなどを使って各々奮闘しているようだがどうやら全く効いている様子はないらしい。となれば俺はベニ坊に頼るしかないだろう。

「ロックオンレーザーナラアル。」

ロックオンレーザー...?初耳だな。めちゃめちゃ強そうだが...でもなぜそんな武装をこれまで使わなかったんだ...?これまでピンチは幾度となくあったのに。

「デモメッチャエネルギーツカウカラ 1 カイシカウテナイ。ソシテソノアトハンニチハ、エネルギーサイジュウデンノタメ、キノウガテイシスル。」

「マジかよ……。」

なるほど...一回しか使えないからそうやすやすと使うわけにもいかなかったのか...どのくらいの威力かどうかはわからないが一回しか使えないということは相当な威力なのだろうか...?

「な…、効いてないのか…?」

レンの絶望の叫びが聞こえる。

「おい!何か弱点とかわからないのか!?」

俺は現状に焦り、急いでベニ坊に問いただした。

「イマ、カイセキシテミタガ、アタマガキュウショダト、スイソクデキルガ、カラダガカタスギテ、ナミノコウゲキジャハガタタナイ。」

「マジかよ…。何か手はないのか…!?」

「ロックオンレーザーナラ、ワンチャンアルカモ。」

「ワンチャンって…」

ロックオンレーザーって...一回しか打てないんだろ...?じゃあそれで倒せなかったら絶望しか残らないじゃないか...?

「くっ…厳しいか…。…みんな!ここは一時撤退しよう…!」

撤退...まあこの不利な状況を鑑みれば態勢を立て直すために一時撤退するのは当然のことだろう。ここはひとまず撤退すべきか...?

「ドゴォォォ!!!」

俺が悠長にそんなことを考えているといつの間にか俺は奴のヘイトを買っていた。俺は今すぐ逃げないと思い、立とうとしたのだがどうにも立ち上がることが出来ない。

腰が抜けてしまったようだ。こうなれば俺はおびえることしかできない。目の前には雄たけびと共に奴が迫ってくる。や...ヤバい...これはマジでヤバい...!

「避けて!ユーギリ!」

俺が奴のしっぽによる物理攻撃になすすべなくひねりつぶされようとした時、俺は何者かに突き飛ばされ、押し倒された。

「うっ……大丈夫…?」

それはテトラだった。俺は今、テトラに押し倒されている。平時なら同い年の女の子に押し倒されているのだからドキドキするに決まっているのだが今はそういうわけにはいかない。俺が隠れていた岩場はいまや跡形もなくなくなっており、俺の目の前には相変わらず奴がいた。一回の攻撃を避けれたとしても次の攻撃を避けることは極めて困難だろう...。これはもう...あれを使うしか...!

「ベニ坊…!頼む...!」

そう言うとベニ坊は俺たちと奴との間に立ちはだかり、ロックオンレーザーを起動した。

するとベニ坊はエネルギーを充填しているのだろうか...?これまでに聞いたことがないエネルギー収束音と共にどんどん発光が増している。そして...

「ドォォォーン!!!」

遂にベニ坊の小さな発射口から大量のエネルギーが奴に向けて放出された。暴音と共に砂埃をたてながら放出される光景は圧巻で、あまりの明るさに周囲が暗くなってしまうほどだった。

「ブウォォォ!!!」

その攻撃は見事に奴の急所である頭に直撃した。手ごたえもすごい。奴もこの攻撃は想定外だったのか相当たじろいでいる。明らかに攻撃成功を感じさせるものだった。


...エネルギーの放射は 10 何秒続いたがすべてのエネルギーを出し尽くしたのかベニ坊からのエネルギー放射は止まった。どうなったんだ...?

「やった……?」

とテトラは声を漏らしてしまう。砂煙のせいでよく見えないが多分やっただろう。

...しかしそんな希望的観測は一瞬にして崩れ落ちた。砂煙の合間から見覚えのある姿が目の前に現れた。

「えっ……うそ...」

あまりの絶望にテトラがまた声を漏らしてしまう。化け物だ...あれだけの攻撃にも耐えれるなんて...。何か傷を負っている様子もない。それどころかさっきよりピンピンしているような気さえする。これはもう無理かもしれん...

「ブウォォォ!!!!」

完全に姿を現した奴は再び咆哮した。

それに呼応するように自分たちが乗っかっている地面に亀裂が走る。度重なる衝撃に橋も耐えかねているのだろう。あと少し橋には耐えてほしいという俺の儚い願いが通るはずもなく、俺たちの足場は一気に崩壊した。奴にやられるのではなくて、奈落に落ちて死ぬことになるのか...。でも俺にはどうすることもできない。そんな無念を抱きながら俺は奈落の闇に呑まれていった...。



「うっ…」

体中が痛い...ここに来てから気を失うことは結構あったのでもう大分この感覚には慣れてきた。そう思い俺はゆっくりと体を起こした。

どうやら俺は奈落の底まで落ちてしまったらしい。おかげで光が全く入ってこず、周りは真っ暗だ。とは言っても視界がゼロト言うわけではない。かろうじて周囲 5m くらいまで見える視界だ。ふと下に目を向けると仰向けになって気を失っているテトラがいた。その姿はまるでふかふかのベッドで寝ているかのごとく安らかな雰囲気だった。そんな眠り姫を起こそうと肩を叩いてみるが応答がない。

え…?大丈夫...だよな...?気を失っているだけだよな...?一抹の不安が頭を横切る。と、とりあえず上にいるであろう討伐隊のみんなと合流しないとな。俺はそう思い移動のためにベニ坊を探す。しかし見つけたベニ坊に声をかけようと全く反

応がない。いつもだったら鬱陶しいくらいに絡んでくるのに...。俺はそう一瞬疑問に思ったが次の瞬間、完全に理解した。ベニ坊はさっきロックオンレーザーを打った後は半日活動が停止すると言っていたな。で、早速機能停止中というわけか。

あれ...?ということは...独りぼっちってこと...?そう思うと急に怖くなってきた。なんせ周りは真っ暗だ。それにして雑音一つない静寂な世界だ。そもそもここは奈落の底とまで言われている場所だ。本当に戻れるのか...?...マジでヤバいかもしれないな...。

と!とりあえず...周囲を探索してみないと話が進まないか...。俺はそう思いテトラとベニ坊を担いで歩き出した。幸いテトラもベニ坊もそこまで重くないので移動自体は割と何とかなりそうだ。おいていこうとも思ったがこんな暗闇の中にポツンと置いて行って見失う自信しかないからな。

...今日も辛い一日になりそうだ。

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