第2話:無機質な友達
うぅ……体中が痛い……死んだのか……いや痛みも感じるし、焦げ臭い匂いも、寝っ転がっているので全身でまるで土のような地面の感触も感じる。
…ん?土?どういうことだ…?
俺は確かあいつらに無理やり降下船に連行されて、降下の衝撃に驚いたところまでは覚えている。多分強烈な G に耐えかねて気絶した…とみるのが妥当だろう。じゃあこの地面の感覚はなんだ?というかなんで横向きに寝っ転がっているんだ……?意味が分からない。
そうして理解が追い付かなくなった俺は遂に自分の瞼を開いた。やはり理解が追い付かない。なんせ眼前に広がっていたのは真っ赤に染まった大地とピンク色の空だったからな。
どういうことだ?異世界転生でもしたのか?さらなる疑問を解消するために寝っ転がっていたからだを両手を使い、起そうとする。しかし手が思うように動かない。両手の方を向いてみるとあのアナログの手錠がかかっているのが見えた。どうやら異世界転生ではないらしい。気を取り直し俺は動かしにくい両手をうまく使い体を起こした。
あたりを見渡してみた。地形は思いのほかなだらかというか平原という感じなのだが、俺の頭を混乱させたのは少し離れたところにまるで異世界の植物だと言っても遜色がないような異形の植物が乱立しているという事実だった。いやそもそも植物なのか、それ以前に生命体なのかすら疑わしい見た目だ。
そう思った俺はより周囲の状況を把握するため後ろに振り向いた。
後ろを振り向いた俺は一考した後、今自分が置かれている状況を完全に理解した。後ろには宇宙船の残骸らしきものが散乱していた。そしてその残骸はどれも炎を上げていていつ爆発を犯してもおかしくない状況だ。いやというかもう爆発が起きた後の可能性もあるが。ここまでの情報を手に入れればなんとなくは察せるだろう。
そう目の前にある残骸は降下船の残骸、そして俺はこの異世界のような星
「プリズニア6」に来てしまったのだ。
でも何個か疑問に思うこともある。
1 つ目はなぜ降下船が墜落しているのかということだ。
降下船にはあいつらが連行してきたし、降下船がステーションから切り離して気絶するまでの間は特に異常は感じられなかった。それで不時着とかならまだしも残骸が炎を出しながら散乱って…明らかに俺を殺そうとしているようにしか見えない。
それで 2 つ目の謎はなぜ俺はこんな残骸から離れたところで気を失っていたのかだ。俺は残骸からだいぶ離れたところで倒れていて周りには部品一つ転がっていなかった。それ以前に俺は降下船の座席に拘束されていて少しの衝撃では拘束も外れないはずだ。もし外れたとしても普通こんな所まで吹き飛ばされないはずだ。というか爆風などでここまで吹き飛ばされたんだったら俺はいまごろ天に召されているであろう。
1 つ目の理由はかろうじて見当がつく。この墜落はあいつらが意図的に仕組んだとする説だ。なぜあいつらはそんな受刑者を危険にさらしてまでこんなことをするのか?
それは多分あいつらはこの降下船を受刑者たちが再利用することを恐れたのだろう。
大気圏に突入するためだけに作られた船とはいえれっきとした宇宙船だ。この星には俺と同じように罪を犯して漂流刑を受けている人がたくさんいると聞いた。そしてその受刑者の数だけ降下船もあるということだ。そいつらがもし結託して宇宙船を修理したり、宇宙船同士を組み合わせたりして何か作られれもすれば自分たちの脅威になるとでも思ったのだろう。
しかし 2 つ目の理由はよくわからない。この感じからすると第三者からの影響を受けたとしか思えないからだ。でもじゃあ第三者って誰だ?周りを見渡したがもちろんそんなものがいるはずがない。ここまで来ればいよいよ超能力の存在を疑ってしまう。フォ〇スでも働いたのかな?
そんなわけのわからないことを考えていると残骸の方から何やら物音が聞こえてきた。俺が咄嗟に振り向くと残骸のうちの一つから次はガサゴソと何かをいじっている音が聞こえる。残骸が崩れたなどの自動的なものではないのは確かだ。俺は息をのんだ。マジか…気づかなかったがなにかいるじゃないか…。ここにもともと住んでいる生き物か何かか?それともさっき言ったほかの受刑者か……?俺の体をここまで運
んだ「第三者」の可能性もある。俺はその物音の元凶を探るため勇気を振り絞り物音が鳴る方へ一歩を踏み出した。
物音が鳴る残骸の前まで来た。その物音は積みあがった残骸の上の方から聞こえているのだが…いつまでたっても物音がやむ気配がない。それどころか最初に聞こえたときと比べてどんどん大きくなっていっているような気さえする。この緊張感のない物音のおかげで恐怖感はいくらかマシになった。この感じだったらこの星の生き物でもなさそうだからな。だが物音が絶え間なく響くせいで声をかけるタイミングが見つからない。陰キャの性といえよう。しかしこのまま待っていては埒が明かない。そう思った俺は勇気を振り絞って遂に一言、声をかけた。
「あっ…あっ…あの!……すいま…せん……」
我ながら情けない声だ。恐怖感もそりゃあるが自分がここまでコミュ障だったとは……あまりの情けなさに思わず赤面してしまう。そうしているとさっきまで忙しく鳴り響いていた物音がピタッと止まった。すると直後に
「ダレダ。ダレカイルノカ?」
その声を聴いて拍子抜けしてしまった。俺が想像していたのはこんな星に送られてきた人なんだからもっと屈強で太い声だったのに実際聞こえてきたのは甲高いロボットのような合成音声だったからだ。俺の頭の整理が追い付いていないうちにその声の主が姿を現した。
姿を現した声の主は縦幅 6m、横幅 1.3mくらいの灰色のベニヤ板のようなものの中央に直径 0.5m の黒色の球が埋まっているという何とも形容しがたい風貌だった。
しかもそれが宙に浮いているというのだ。あんぐり口を開けてしまうのも仕方ないだろう。
「ン?アァ、キミダッタノカ。ダイジョウブカ?ケガハナイカ?」
と言ってそいつは球についてあるモノアイのようなものをピカピカ光らせながらこちらに無警戒に近づいてきた。
「ちょ!ちょっと待ってくれ!?お前は一体何なんだよ!?」
こう返すのも当然だろう。見ず知らずのロボットがなれなれしくしゃべりかけながら近づいてくるんだから。そいつはハッと思い直したのか自分と少し距離を取った後再び話し始めた。
「ソウイエバオマエ、オレヲミルノ、ハハジメテダッタナ。オレハオマエノ、ココデノセイカツヲ、テダスケスルタメニ、ハケンサレタ、パーソナルロボットダ。」
「派遣…?お前、まさか俺が乗ってきた降下船に乗ってたのか?」
「ソウダ。オレハシュジンデアル、オマエノメイレイニダケ、シタガウヨウニ、プログラムサレテイル。」
主人だと思ってる人に対して「お前」って言わないだろ、普通。しかし専属のパーソナルロボットまでついてくるとは……なかなか手厚いな。
「チョットリョウテヲカオノイチクライマデアゲロ。」
そいつはモノアイをまたピコピコ光らせながらそう言った。どういうことだ…?俺の両手は手錠でふさがれているんだが…。そうすると突然モノアイの下の辺りから小さなチェーンソーのようなものが飛び出してきた。
「ひぃ…!?」
そう思わず短い悲鳴を上げてしまう。しかもそうしたかと思えば本当のチェーンソーのように突き出した刃が高速で振動し始めた。……いや、これマジのチェーンソーじゃね!?あまりの恐怖に腰が抜けそうになる。こいつ……俺をだましたな…!やだ!まだ死にたくない!!
恐怖で固まった俺をよそにそいつはチェーンソーを振り上げた。次の瞬間両手の自由を妨げていた手錠の鎖部分にチェーンソーがあたりバカでかい金属の擦り切れる音が鳴り響いた。火花も飛び散っている。俺が何が何だか理解できず茫然としている間にチェーンソーは手錠の鎖部分を断ち切って俺の両手を解放した。
ん?……情報整理が追い付いていないが…こいつは俺の手錠を切ってくれたのか…?とりあえず俺を殺そうとしているわけではなさそうだ…。
「ナニオマエ、フヌケタカオシテルンダ?」
俺が腑抜けた顔をしているとそいつが不思議そうに話しかけてきた。
「シカシ、アタリイッタイノザンガイヲ、シラベテミタガヤハリ、ツカエルモノハ、アトカタモナクキエテイルナ。」
「使えるもの?」
「モトモト、チャクリクシテ 15 フンゴニ、コウカセンノサイリヨウヲフセグタメニ、コウカセンハジバクスルヨウニ、シークエンスガクマレテイル。ソレニシテモキヲウシナッテイルオマエヲ、ワザワザバクハツガトドカナイトコロマデ、ハコンデヤッタンダカラカンシャシロヨナ。オモカッタンダカラナ。」
「自爆?運んでやった?どういうことなんだ?」
それから俺は周囲の探索をしながらこのロボットに質問攻めをした。星流しでは星に降下する際、大気圏に突入することしかできない降下船で受刑者はこの惑星に降り立つ。ここまでは俺も知っている事実だ。しかしここから俺の知らないこと。着陸した降下船は事前に船体が 15 分後の爆発するようにプログラムが組まれているらしい。俺の予想は半分的中していたということだ。あいつらはこの降下船が何かに再利用するのを恐れている。だから俺が目覚める前に降下船を自爆させたんだ。(まあだから墜落したわけではないらしい。)だが気を失っているということはその場から動けないということ、その場から動けないということは降下船の自爆に巻き込まれそのままお陀仏になってしまうということでもある。そんな気を失っている自分を爆発から守るために安全なところへ運んだのがこの俺の目の前にいる変な形をしたロボットだったということだ。なるほど筋は理解した。
しかし一つ、新たな疑問が生まれた。そうそれは別にこんなめんどくさいことをしなくてもステーションにいる連中が宇宙船の一つでも飛ばして受刑者を地上に降ろせばいいのになぜそれをしない?というものだ。よくよく考えればそうだ。そうすれば降下船をいちいち使い捨てにしなくて済むからな。しかしこれにはれっきとした理由があるらしい。
この星の上空では「磁気乱流」というのがしょっちゅう起こるらしい。星に降りる分は飛行にそこまで影響はないのだが大気圏を脱出しようとした時にその磁気乱流は猛威を振るう。これによってこの星の大気圏を突破するのはプロのパイロットでも至難の業なのらしい。あと余談だがこの星の上空は原因は不明だがものすごい磁気が荒れているらしい。このおかげで電波をこの星の低軌道上にあるステーションから地上に送ることが出来ないらしい。逆もまた然りだ。
しかしこのロボットは本当にすごい。あの植物は何?と聞けばすぐに返事が返ってくるし、これからどうすればいい?というアバウトな質問でも懇切丁寧に答えてくれる。まるで歩く百科事典のようだ。口が悪いのが唯一気になるところだが。まあ許容範囲だがな。しかもこいつ移動の際、スノーボードのようにこいつの上に乗って移動することもできるらしい。板状の見た目をしているのはこのためだったんだな。しかしこんなすごいロボットが付属品のようについてくるなんて…多分受刑者一人ではこの星で生きていくことはできないとあいつらは考えたんだろう。しかし本当に心強い味方だ。こいつがいなかったら今頃途方に暮れていただろう。
でも一つ不安材料がある。それはパーソナルロボットは 3 年後になると自動的に機能が停止してしまい、最終的には自爆してしまうということだ。まあ多分3年もたてば受刑者の一人くらいは見つかるだろうからあまり気にする必要はないだろうが、ここまで便利だと少しもったいない気もしてしまう。というか降下船も自爆して、パーソナルロボットも自爆するなんて…なんであいつらはことあるごとに自爆を好むのだろうか。
これからどうするかいったん置いておいてまずは今日を生きることを考えないと。ベニ坊に聞いたところによるとこの星には何千種類の植物や何百種にも及ぶ原生生物が独自の生態系を生み出しているらしい。しかもここにいる原生生物はほとんどが狂暴な性格であり絶対に遭遇しないように注意を払わないといけないらしい。一応出会ってしまったらの場合を聞いてみたんだがベニ坊曰く、
「イマノワレワレガ、カナウアイテデハナイ。デアッタラワリト、ジエンドダ。」
ということらしい。この話はこれ以上深堀しないでおくのが得策だろう。
ん?
「さっきから出てきている”ベニ坊”っていったい誰なんだ?」
って?
これは少し前……
「そういえばお前、なんていう名前なんだ?」
とふと気になったので聞いてみた。いつまでも「こいつ」や「お前」って呼ぶわけにはいかんだろう。すると、
「オレニナマエハナイ。ナマエガナイノガキニクワンノデアレバ、シュジンデアルオマエガキメロ。」
名前がないのか……なんか型式番号とか、そういうのはないのだろうか?、まあいい。こいつの名前か……こういうのは見た目にちなんだ名前の方がいいのかな?
だとすると白色のベニヤ板みたいな板に黒いボールがついている。……ベニヤ板にボール……
「……ベニ坊!とかどうかな?」
「ベニボウ?ネーミングセンスハゼツボウテキニナイガ、マアイイダロウ。」
「一言多いんだよ!?いちいち!」
というくだりがあり無事、こいつの名前はベニ坊になった。
そんなことはさておき、まずは衣食住を確保しないとな。
まずは「食」だ。
人間は食料がないと三日と生きられないからな。しかし周りに生えているのは植物とは言ったがどれもこの世のものとは思えないような見た目だ。俺はあいにくそれらを食す勇気は持ち合わせていない。だが今の俺にはベニ坊がいる。ベニ坊はこの星の生態系にやけに詳しくその植物を見るだけでどれが食べれるのかを瞬時に判別できるらしい。これのおかげで案外食料の確保は順調に進みそうだ。それにしても見た目の割には結構どの植物も毒とかは入っておらず、安全に食べれるらしい。しかも大体の植物は中に水分が含んでいることが多いため図らずとも水分の問題もクリアした。少々都合がよすぎるような気もするが、まあ今はそんな杞憂をしている場合じゃないからな。
で、その味の方なんだが…好みの分かれそうな味というかなんというか……
はっきり言おう。まずい。食べれたものではない。これをずっと食べないといけないとなるとめまいがするな。早くおいしい食べ物を探さないと……。
次は「住」だ。
もちろん野宿するわけにはいかない。夜行性の猛獣が夜は跋扈するらしいからな。
じゃあ一から壁も屋根もある家を作るのか?そんなことをしていたら日が暮れてしまう。まあ一番現実的なのはもともとある洞穴とかに住むとかだろう。そうベニ坊に伝えるとベニ坊はおもむろに周りの地形をスキャンし始めた。するとすべてを理解したかのように近くの洞穴まで案内してくれた。
……あれ?こいつ有能すぎないか……?
ここにきて初めての夜になった。ベニ坊が案内してくれた洞穴は広さもちょうどよく、まさに理想的な洞穴だった。一応これからのことを考えてみた。まあベニ坊の話を聞く限りこの星から脱出するのは容易ではなさそうだな。しかしまだ希望はあると思う。そうそれはほかの受刑者の存在だ。この星には俺以外にも過去に何人も受刑
者が降り立ってきた。数は多くないにしても受刑者同士でコミュニティを作っている可能性もある。まあだから当面の目標は各地を転々としながらほかの受刑者に接触することだろう。なあに、この星は広いとはいえ俺にはベニ坊がいる。心配しなくてもすぐに見つかるさ。と思いたいところだな…それにしてもこの星の夜空は何とも美しい。ガイアにはかなわないがそれでも見てて全く飽きない。そういえばこんなまじまじと空を見たのもいつぶりだろうか。引きこもってからというもの全く外に出なくなってしまったからな。まさかこんな辺境の星にきて想うことが母星の夜空のことだなんて。
……あぁ…もっとガイアの空を見ておけばよかったな……
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