08 異世界転移の落とし穴
里咲が捕まったのは、この東京に潜り込もうとした時のこと。
壁中への転移を避けるため、地方の路上でこの世界に転移してきた里咲は、情報収集に励んだ後、不法上京者を都内に運ぶ業者トラックの荷台に、どうにかして潜り込んだ。
だが、それこそが罠だった。
トラックの荷台に揺られ、数時間後。
どさり、自分が入っているケースが持ち上げられ、乱暴に地面に置かれたのがわかる。もういい加減に体がしびれてきた里咲は、折りたたんでいた脚と腕をゆっくり広げるように、ケースからのろのろ、身を出した。
予想していたネオンサインや車の群、雑踏のざわめきがないことに少し違和感を覚え、あたりを見回す。
その瞬間。
激痛が里咲の体を貫いた。
「逃げるあなたを追いかけても無駄なんですよ」
積層都市の東京を背景に、男は冷たく言い放った。
知っている顔のいるはずない、異世界巡りの旅の中。初めて見た馴染みの顔。
「……追加のスーツが完成して、異世界との交流方針も、ウィンウィンで、ということでようやく決まりましてね、こういうこともできるようになった次第です。あなたならいずれ、一番遠い、けれど日本語が通じる、この東京にやって来る。そう信じてました」
棒のようにひょろ長い体と、妙に平坦な顔、特徴のない髪型をして、黒のスーツに身を包んだ、年齢不詳の男が言う。そして百人近い黒装束の男が、里咲を取り囲んでいた。
その中の一人がテーザー銃を里咲に放ち、電撃を浴びせていた。
「なぜ自分の居場所がわかったのか、疑問に思われるでしょうが……ここの現地政府の方々は、生まれ育った故郷を捨てていく人々の取り締まりにはどうやら、一家言あるようでしてね」
くすくす、いたずらをした小学生のように笑う男、
スーツを開発した異世界の東京で、里咲の担当官だった男。
どすん。
電流が途絶え、膝から崩れ落ちる里咲。
「追いかけても無駄……なので、待ち伏せ、させていただきましたよ。あしからず」
深く一礼する黒石。黒装束が里咲にたかり、無慈悲にスーツをはいでいく。代わりに拘束衣が着せられ、どこかへ運ばれていった。
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