それを守るためならば人はどこまでも強く勇敢になれる
不破陸
それを守るためならば人はどこまでも強く勇敢になれる
彼には三分以内にやらなければならないことがあった。
否、もはや三分の猶予すらない。
彼の地へ、猛然と突き進む。ふと誰かが足早に隣を歩いていることに気づいた。
一人、また一人と同じ道を征く同士が増えていく。
しかし彼等は仲間ではない。敵だ。行く道を交えなければならなかった心の通じ合う敵だ。呉越同舟という訳ではないが、奇妙なことにやはり同士ではあるのだ。
同じ信念を持つ友とさえ言える。それでも彼等が敵同士であることに変わりはない。
彼等は目指す。ただ一つの所。それは聖地とも、聖域とも言えよう。人間の尊厳や誇りを、人種や国籍、国境や宗教さえも越え共通の物と讃えるのであるとするならば、今の彼等が目指すもの。それはサンクチュアリ、ヴァルハラ、ニルヴァーナ、ニライカナイ、ヘヴン、極楽浄土とも表現されよう。
道行く途上、刃物を振り回す暴漢が見えた。それをなぎ倒し、猛然とバッファローの群れが行く。
道行く途上、泣いている迷い子が見えた。助けを呼びたい。しかし腹に入れる力がない。心を消したバッファローの群れが行く。
道行く途上、倒れている老婆が見えた。屈んでいる余裕はない。それでも耐え切れず数人の友が、もはや尊敬するべき友とも呼べる存在が老婆に駆け寄り旅立った。119に通報しながらバッファローの群れが行く。
道行く途上、幽霊が現れた。もはや恐怖などない。いや、恐怖があるからこそ、それ以外の恐怖など問題にならないのだ。一丸となったバッファローの群れが行く。
目的地である小屋に辿り着いた彼等は諍いを始める。
「ケツにチャックはつけられません」
もはや幻覚が見えているのだろう。誰かが言った。
「決着をつけよう」
ケッ栓が始まる。
いや、或いは。
ケッ壊。
それが自我であるのか、それとも別のものであるのかは彼等から滴り落ちる脂汗が物語っている。
それが片方であるのか。あるいは両方であるのかは見ている者にはお通じだろう。
ケッ闘が始まった。
ただ流れし茶色い空気。
ケッ果は酷い有様であった。
これは勝利ではない。ケッして勝利などではない。一人の男が争いの虚しさを悟る。
ただそれでも、パンツを守った男の顔は清々しさに満ち溢れていた。
それを守るためならば人はどこまでも強く勇敢になれる 不破陸 @Quinfalbey
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