【KAC20241+】バッファロー。その思念。

臆病虚弱

本文

   ………


 アマチュア作家・臆病虚弱には3分以内にやらなければならないことがあった。


 それは『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』の登場する小説を投稿することである

 だが、彼には問題があった。

 彼は、あまりにも胡乱な物書きであった。

 そのあまりにも冗長な小説をようやっとの思いで公開する……。

 これはその悪戦苦闘の記録である。


   ―――


 とはいえ、序文でこうして公開することを規定してしまえば、後の作業は簡単なものである。そう私は高を括る。


 既にこの作品内世界での結末は規定され、後のこの文章は全てその結末に向かう一筋の線にすぎず、どのような形で終えようとも序文の冒頭に収束する、いわば円環的な構造/循環構造を持っている作品として構築されている。読者がどんなに穿った解釈をしようと、私がどんなに胡乱で滅茶苦茶でバカみたいな事をしようと、既にこの作品は序文でその構造が規定され、更には、この文章を誰かほかの人間が見ている時点で、この作品のメタフィクション性からこの作品の序文にある『3分以内にやらなければならないこと』は達成されたという事は証明されるわけで、既にこの作品の結末は完全規定されているのだ。


 だが、よくよく考えてみたら、これは中々奇妙なことだ。今、私はガタガタと手を忙しなく動かし、頭を掻きながら、言葉を紡ぎ出し、横目に『少年ヤンガスと不思議のダンジョン』をプレイしながら、真面目腐った文章を打ち込み続けているわけだが、全然本題に入ることができていない。それなのに、何時かは序文の通りの事が起きると規定されているつもりでいるわけだ。いや、勿論、今書いた作品外世界の事象も作品に描かれてしまったので既に作品内の出来事になっている。作品外世界のものとは既に別の『記録された出来事』として作品内世界に収束しているわけだが、いや、収束ではなく集約と書くべきか、とにかく、作品内世界は既に規定されている、だが作品外世界は全く規定されていない、このギャップは私にとって非常に興味深いことなのだ。いわばメタフィクションの現実での作用と言うべきか、フィクションの垣根を超えるメタフィクションの特異性だ。作品外世界の私は自由気ままに滅茶苦茶なことを書き、滅茶苦茶な事をして、どうにでもなる。だが、この作品を公開することは変わらない、いや、何年後かに公開したり、何なら死ぬまで公開しないという事はできる。だが、それは単にこの作品が存在しなくなるわけで、この作品が周知され、他者に見られている時点でこの作品に規定された結末を、作品外世界の私も行ったということになる。


 私は作品外世界の私と別なのだろうか、書かれている私と書く私、同じと言えば同じだが、素手に書かれた私は作品内世界の私として独立して存在しているようにも思える。というか、この文字一つ一つが打ち込まれた時点で私の中の私の思考は既に過去のものであり、そもそも私の書いた文章が私であることなど一切ないのに、文章内の私は私として書かれている。だが、確かに、私は私としてこの作品内世界の私を規定して作品外世界の私の周辺の状況や考えた事を書いている。


 まあ、このままずっとこれを突き詰めていけばシニフィアン・シニンフェだののソシュールの話になり構造主義、ポスト構造主義とここで明らかにすべきでない話になる。ここで話すべきことは、そう、ええと、何だったか、そうだ『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』だ。その物語について話さなくてはならない。


 だって冒頭にそう書いてあるんだから。皆見ているように、この話は『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』について語るお話だ。しかも三分以内に……とはいえ、もう書き出しから数時間たってしまっている。


 丁度作品外世界の私がゲームをやってしまって時間がいつの間にか経っていたんだ、でも読者の皆はそんなこと気にせずに読める、これぞ文芸作品の特性と言う奴だ。時間がどれだけ飛ぼうと、文章は一つ。読み方によっては一つではないがまあ、どっちにしろ筋が生まれるという奴だよ。


 とにかく、この文章では『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』について語る。既にそう規定されているように。だから、私は『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』のお話を語り始めたいところだが……私は既に一度このテーマについての作品を書いている。カクヨムの作者ページから飛んでくれればわかるが、あ、このページからも関連作品で飛べるとも思うが、私、臆病虚弱による『サプライズバッファローアタック現象』という作品だ。我ながらこの作品は真面目に書いたと思っている。まあ、その分ここで公開するには長い作品になってしまった。もう少し文量を削りたかった。だが、今この長々とした文章を呼んでくれている読者はもうお気づきと思うが、私は冗長かつ饒舌という『悪癖』を持っており、短編を書くのが不得手なのだ。オマケにこのテーマについて一度書いてしまって以降、アイディアこそ湧くが、それをまとまったプロットとして生み出すのには随分苦心しているのだ。


 だから、私は今ここで『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』についてどう語るべきか皆目見当もつかず、太平洋の海原に海図も羅針盤もなく放り出された哀れな海賊としてベラベラと喋り続け、右往左往遭難しているわけだが……。このカクヨムにおいて、また、短編作として一話は2000文字から3000文字の間にまとめたい。いやKACの規定には特に字数制限はなかったので別に良いのだが、この文字数以上の文字を一回に読ませるのはサイトの構造上、君たち読者には酷なことだと思う。だからこそ、どうにか、まとめたいところだが。

 止むを得まい。『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』の話は次に持ち越しと行こう。心配することはない、これが公開されているという事は、少なくとも冒頭の文章は生き続けるわけで、作品内の制約として機能する。少なくともこの物語が完結を迎えることは確実なのだ。ならば2話目が出てきても問題なかろう。

 というわけで、また次回、お楽しみに。


 (続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る