第5話 あの子のことって好きなの?
次の日。
朝、学校に登校すると、クラス委員長である
彼女の後ろ姿を見ながら、
未宙は真面目で責任感もあり、担任教師から色々と頼まれたのだろう。
委員長だとしても、もう少し気楽に考えてもいいと思うが、彼女は引き受けた業務を先々に済ませてしまおうと考えているのだと思う。
入学してから大分経つが、未宙は誰かと積極的に話しかけることもなく、一人でいることが多い。
義亜も一人でいることが多いものの、彼女は義亜とは違い、成績も優秀で他人から評価されることが結構ある。
入学当初は、同性のクラスメイトから話しかけられていたが、今はそこまで頻繁ではなかった。
勉強でわからないことがあったら、同性から話しかけられる程度。
容姿はいいのに、真面目過ぎて他人から少し距離を取られているところが目立っていた。
しかし、男子からは定期的に話しかけられることもある。が、その度に未宙は忙しいからと言い、釣れない発言を残していた。
未宙は学校にいる時だけ、殻に閉じこもっているところがある。
昨日の放課後は、あんなに笑顔で会話していたのにと思いながらも、義亜は自身の席から未宙の後ろ姿を眺めていたのだ。
「おはよう」
「お、おはよう……」
教室内に人が増え始めてきた頃、隣の席である
彼女は挨拶をするなり、笑顔で挨拶をして席に座る。
「何か悩み事とか?」
「そんな事はないけど……」
「でも、めっちゃ、真剣な顔で悩んでいる顔をしてたけど」
「そんな顔をしていたのか?」
「うん。悩んでるなら聞いてあげるよ」
梨花は席に腰かけると、体の正面を義亜の方へ向けてきた。
「ねえ、なに? どういう事で悩んでるの?」
「それは……なんでもないって」
義亜は隣の彼女の方を見やるが、気まずげに視線を合わせる事はしなかった。
「なんでもないってどういうこと?」
「そういうことだって」
義亜は梨花にまじまじと見られながらも、言葉を濁してばかりだった。
「ここで言いたくないならさ、別のところで話す?」
「いいよ。別に困ってないし」
そう言って、義亜は未宙の後ろ姿を見やる。
「……もしかして、あの子の事とか?」
義亜がハッとため息をはき、気を抜いた時には、右隣の梨花が耳元で囁いてきたのだ。
「え、ち、違うよ」
「違う? でも、視線があっちの方に行っていなかった?」
「違うから」
「そうかな?」
「そういう事にしておいてくれ」
義亜は少々気を強めて返答しておいた。
「義亜って、あの子のこと好きなの?」
また続けざまに話しかけてくる。
「好きっていうか……一応言うとな。幼馴染なんだよ」
面倒だったこともあり、未宙との間柄を説明することにした。
「幼馴染?」
梨花は首を傾げた後、彼女も未宙の後ろ姿を見やっていた。
「そういう事なの? だから昨日一緒にいたってこと?」
「そ、そうだよ」
「幼馴染って、いつ頃の? 幼稚園児の頃とか?」
「小学五年生の時までの」
「へえ。まあ、そうだよね。私、あの子とは中学違ったし。でも、凄い運命だね。たまたまにしては一緒の高校に入学するなんて」
「そうだな。俺も正直驚いたさ」
まさか、昔の子と一緒に高校生活を送れることになるなんてと、義亜も衝撃的だった。
「好きなの?」
「え?」
梨花からストレートに問われた。
「それは――」
どういう対応をすればいいのか悩む。
素直に伝えた方が良いのか。それとも、誤魔化した方が良いのかと――
「俺は……好きというか、仲良くなりたいから。だから、好きとかはまだ」
「ハッキリしない感じ?」
未宙が同じ教室にいるのに、そんなこと大声で言えるわけがない。
「じゃあ、好きか嫌いかだったら?」
究極の二択により、さらに気まずい状況へと追い込まれる事となった。
「そんな意地が悪いこと聞くなって」
「でも、私、知りたいんだけど」
梨花から真面目な顔つきで言われる。
「そんなこと、まじまじと聞いてくるなって」
「私も、義亜ともっと仲良くなりたいし。本音を知りたいの」
「俺と仲良く?」
「うん。だからね、私、同じ高校にしたんだよ」
「偶然じゃなくて?」
「そうだよ。私、義亜がこの学校に行くって知って、頑張って勉強もしたんだからね」
「だから、中学三年生の頃からずっと学校の図書館にこもって勉強していたのか」
義亜は一年前の出来事を振り返っていた。
義亜も受験勉強する際は、学校の図書館に引きこもって夕暮れ時まで勉強にふけっていたのだ。
「そういうこと。だからね、私、今後のために色々と知りたいの」
梨花が考えていることが分かると、余計に返答に迷い、気まずくなる。
「……好きな方だと思う……」
義亜は小声で言葉を零す。
「好きってことで、義亜の気持ちは定まってるの? そういう解釈でいいってこと?」
義亜は、それから頷いて自分の口で説明する事はしなかった。
「義亜の気持ちはわかったよ。そういう事なのね。義亜は、あんな感じの子が好きなのね」
梨花は悲しそうな顔を見せた後、黒板のある方へ視線を向け、頬杖をついてため息をはいていたのだった。
これで良かったのだろうか。
何が正解で、何が間違いかも今のところわからない。
でも、どこかでは自身の想いを伝えないといけないと思う。
そんな時が来る。
未宙と正式に付き合うことになったら、梨花からの想いを切り捨てないといけないのだ。
それなら、未宙の事が好きだと、予め伝えておいて正解だったのだろう。
梨花との会話が終わってから、丁度二分が経過した頃だった。
「今から朝のHRを始めるから! 早川は、あの件は終わらせたのか?」
「はい」
担任教師は教室に入ってくるなり、周りにいる人らを見渡し、壇上前に佇んだまま未宙へ視線を向けていた。
未宙は終わりましたと答え、一度席から立ち上がって担任教師に一冊のノートを手渡していた。
担任教師はノートをパラパラとめくり確認をする。
「ちゃんと出来てるな。さすがは早川だな」
担任から評価されていたが、彼女は表情を変えることなく、礼儀正しくも軽く会釈をし、席に座り直すだけだった。
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