第20話 鍛錬 ※
キリトがぼんやりと目を覚ますと陽はもう高かった。王宮に来てから寝坊ばかりしている。ロベルトと暮らしていた頃は日の出とともに起きて水汲みや洗濯をしていたのに。手早く着替えて寝室を出る。
部屋を見渡したがレイルの姿は無かった。昨晩のことを思い出して顔が熱くなる。
ノックの音がして扉に目をやると、サガンが赤い髪を揺らして、メイドと何か話しながら入ってきた。長身に銀色に輝く騎士の鎧を付けて剣を下げている。メイドの顔がほのかに赤い。相変わらずの男振りだった。
「お目覚めのところ失礼。といっても、もう昼だよ。」
サガンはキリトの髪についた寝癖を見て、くすくす笑って言った。
メイドがテーブルに二人分のお茶を入れてキリトの朝食を並べてくれた。二人でテーブルに着くとサガンは言った。
「私の配下が迷惑をかけた。本当にすまなかった。」
「いいんだ。騎士団同士でちょっと確執があるようなこと、ジャンが言ってたよ。サガンも大変なんだね。」
サガンは目を閉じて首を傾げると唸った。後ろに束ねた赤毛がさらりと肩を流れる。
「そうなんだよね。」
と悩ましげに溜息をついた。
「サガンはこれから何をするの?」
「書類は片付けたから、騎士団の鍛錬に顔を出そうかと。」
「そうなんだ。僕はこれからカゼインと異能の力の訓練だよ。」
「キリト様、カゼイン様から伝言がございましたわ。キリト様は力を使ってお倒れになったので、回復のために訓練は二日間延期すると。」
メイドが思い出したように言う。
「あれ、そうなんだ。僕、元気だけどな。」
今日から頑張ろうと思って居ただけに残念だった。
「レイルは忙しそうだし、僕、一日中やる事ないよ。あ、洗濯か薪割りでもしようかな。」
キリトの言葉に、メイドが首を横に振った。
「とんでもございません。」
「それじゃあ、騎士達の鍛錬を観に来ないか?」
「いいの?」
サガンの言葉にキリトは顔を輝かせた。
********
サガンが団長を務める第二騎士団の鍛錬は、王宮の裏手の鍛錬場で行われていた。
五組ほどの騎士達が全身を覆う重そうな鎧をつけて、剣と盾を持って打ち合っている。それを練習場の周りに並んだ騎士達が真剣な眼差しで見つめていた。時折、回廊を通りかかる他の団の騎士やメイド達も、気になるのかしばらく立ち止まっては見学しているようだった。
「サガン団長。それに、あなたはもしや…」
騎士の中から一人が進み出て声を掛けてきた。
「キリトです。」
キリトが名乗ると周りが騒めいた。
「では、あなたが...」
「...奇跡の子というのは」
「...大怪我を一瞬で治したと...」
騎士達の口々に話す声が聞こえてくる。キリトが大勢からの視線になんだか居心地が悪くなって俯くと、サガンはやれやれといった様子で片手を上げた。
途端に皆、口をつぐんだ。
「折角だから試合を見てもらおうか。」
そう言うとサガンはキリトに微笑んだ。
サガンが全身鎧を着て、頭にも金属製の防具を付け、顔の覆いを下げると、顔が完全に見えなくなった。試合の相手は副団長ということだった。
誰かがカンと鐘を鳴らすと試合が始まった。じり、と間合いを取ると副団長が先に打ち込む。サガンは難なく交わすと相手の死角をついて足元を薙ぎ払った。バランスを崩して膝を付いた副団長にサガンが間髪入れずに打ち込む。
キリトは白熱の試合に両手を握り締めて思わず椅子から立ち上がった。
勝負あったかと思ったが、副団長はサガンの剣をギリギリで避けると下から剣を振り上げた。ガン、とサガンの鎧の脇腹に剣が当たる。
「そこまで!」
と声がして、試合は副団長の勝ちとなった。周囲から拍手と喝采が巻き起こった。
サガンが頭部の防具を取ると、キン、と小さな音がして髪留めの飾りが落ちたが、誰も気づかないようだった。
落としたよ、とキリトがサガンに駆け寄るのと、強い風が吹いて砂が巻き上がるのは同時だった。目を閉じ損ねて砂埃が目に入る。
「痛っ」
キリトが手で目元を覆って立ち尽くしていると、サガンが駆け寄ってきた。
「どうした、目に砂が入ったのか?」
キリトの顎に手をやって上向かせる。
「見せてみろ。」
「あ、もう大丈夫。」
キリトは頬の涙を手の甲で拭った。
********
夜、夕食を終えて自分に当てがわれた部屋で寛いでいると、疲れたような顔をしたレイルが入ってきた。
「レイル。お疲れさま。ご飯は食べた?」
キリトが声を掛けるが、レイルはそれには答えずに言った。
「騎士団の鍛錬を見に行ったそうだな。」
疲れのせいか、どこか不機嫌な顔をして、キリトと目も合わせない。
「うん、そうなんだ。凄かったよ!サガンが...」
言おうとすると、レイルはキリトの腕を強く掴んで引き寄せた。顎を掴んで上向かせると噛みつくように口付ける。
「んんんっ」
キリトに抗議するように胸を叩かれたが、その腕もすぐ捕まえる。レイルはそのまま腕を引き、キリトを寝台に押し倒した。急な展開に目を白黒させているキリトの顔にちらりと目をやると言った。
「メイド達が噂をしていたぞ。」
キリトの腕を寝台に縫いつけ、もう片方の手でキリトの下衣の紐を引いてくつろげると、下着の上からキリトの中心を撫でた。
「あっ」
「あなたは試合をするサガンを頬を赤らめて潤んだ目で見つめ、サガンが倒れると心配のあまり手を握りしめて駆け寄り、涙を流しながら口付けたと。」
「そ、そんなことしてない。」
事実と尾ひれの付いた噂がごちゃ混ぜになっている様だ。
レイルはキリトの中心を下着ごと握りこみ、上下にしごいた。
「ああっ、あっ」
キリトのそれは完全に勃ち上がって、先端から先走りが溢れ下着に小さな染みを作った。
「どうだか。」
キリトが見上げるとレイルは苦しげな顔をしていた。いつもは明るい色の目も、今は陰って深い緑色をしている。
「サガンに心惹かれていても、俺の手で感じるのか。」
目に涙を浮かべて首を横に振るキリトに構わずに、レイルはキリトの耳元に顔を寄せると低い声で言った。
「淫乱。」
「ちが...」
「違わないだろう。ほら。」
キリトの下着を取り去り、明かりの下に晒す。レイルはヒクヒクと震えるそれを大きな手でにぎり、性急に擦り上げた。
「ひあああああ」
キリトはレイルの手にあっけなく精を放った。
「ひっく、ひっく…」
泣き出してしまったキリトに、レイルは我に返った。
「すまない、俺はまた...」
「…し、してない。本当にそんなこと...」
「キリト…」
「…きらい、出ていって」
レイルはキリトの言葉に衝撃を受けた様に固まると、ふらふらと部屋を出て行った。
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