一点突破

朽木 堕葉

それはどちらの弾丸か

 天薙蒼也あまぎそうやには三分以内にやらなければならないことがあった。

 いや、必ずしもそうではない。

 俺がなにもしなければ――

 蒼也は手に携えた拳銃から視線を転じ、正面に立つ見慣れた顔を一瞥する。途端、気抜けさせられた。

 相棒の金髪碧眼の男は、悠長に煙草で一服していたのだ。蒼也は精悍だった面構えを崩し、

「おい、ロジー。緊張感ゼロかよ」

 呆れ顔で呼んだ。

 ロジーがハハッと軽薄な笑い声を上げた。

「せっかくの余興なんだ。焦るなっての」

 余興という言葉が蒼也の脳裏で木霊する。促されるように、周囲を見渡していった。

 元は地下演習場だったらしいが、荒廃が著しく、ちんけなマフィアが根城にするにはお似合いだった。防弾ガラスの向こう側で、ほくそ笑む髭面の男を、蒼也は睨みつける。

 男の傍で拘束されている二人の女性が、蒼也とロジーの恋人だ。

『あと二分だ。おいおい、まさか見捨てるつもりか?』

 煽り立てるように、髭面の男がマイク越しの声を響かせる。

 およそ一分前、マフィアの頭領ボスたるその男は、愉悦に満ちた顔でこう宣言した。

『今から三分以内に、お前ら二人で殺し合え。生き残ったほうを、女とともに解放してやる』

 雇われの傭兵として敵対組織から依頼を受けた蒼也とロジーは、あの男の一味を壊滅寸前まで追い込んだのである。

 その報復で、今この状況に陥っていた。

『残り一分だ』

 髭面の男が短く告げ、堪えきれない様子で高笑いをはじめた。

 ふと、ロジーが深々と煙を宙に吐き出し、

「あの部屋には奴だけ。配置についてる人員も手薄でまばら。一点突破・・・・でどうだ?」

 ニヤリと唇を吊り上げた。負けじと蒼也は強気に笑い返す。

「どっちので仕留めたって、文句なしだぞ?」

「決まりだ」

 ロジーが煙草を放り捨てた。

 床に落ちた刹那、二人が同時に髭面の男へ発砲した。立て続けに。弾丸は防弾ガラスのまったく同じ場所に命中をつづけ――遂に貫通し、髭面の男の額に達した。

 男は余裕の表情のまま、後ろへ倒れ込んだ。

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一点突破 朽木 堕葉 @koedanohappa

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