第3章〜逆転世界の電波少女〜⑤
自宅の前で待ち合わせをしたオレたちは、
この店は、彼女の行きつけであるということもあるが、オレたちの住んでいる人工島・摩耶あいらんどは、多くのカフェの閉店時間が早いこともあり、通話を終えた時間に営業をしている店舗は、ここ以外になかったということもある。
カフェに着くと、夕食を食べていなかったという
「へぇ〜、カフェなのにタイカレーも置いているなんて珍しいね」
メニューに目を通しながら、カフェの常連であるにも関わらず、そんなことをつぶやく彼女の言葉に若干の違和感を覚えながらも、オレは、
「う〜ん……無国籍カフェだから、どこの国の料理でも提供してるんじゃないか?」
と、相づちを打ちながら返答する。
「それもそっか! そう言えば、
「あぁ、そうだったかな……? 最近は、なかなか時間が合わなかったしな……」
このセカイで活動している普段のオレが、どの程度の頻度で
「そうだね……さっきの話しに戻るけど……
コチラの意図を探るように、彼女は上目づかいでオレの表情を確認しながらたずねてきた。
「オレは……不安というか……寂しくなかったと言えば、ウソになるかな?」
それは、彼女と疎遠になりはじめた中学生になった頃からのオレの偽らざる本音でもあった。
「それでも、わたしに気を使って、言えなかったとか?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら、質問を重ねる
すると、彼女は、口角をさらに上げて、満面の笑みでこう続けた。
「ふ〜ん……さっきも、そうだったけど、わたしの知らない間に、ずいぶんと女子を喜ばせるのが上手くなったね?」
「『男子、三日会わざれば
少し冗談めかした口調で返答すると、彼女は、やや興味を失ったような口調で、
「ふ〜ん、
と答え、その言葉と同じタイミングで、注文したドリンクとスペシャルサンドのセットが運ばれてきた。
「こっちのことは気にせず、遠慮なく食べてくれ」
オレが、そう言い終わらないうちに、好物のメニューに目を輝かせた
普段なら、SNSに投稿するためにスマホを取り出し、撮影を終えてから食事をし始めることが、彼女のルーティーンになっているはずなのだが……それだけ、空腹に耐えかねていた、ということなのだろうか?
運ばれてきたブレンドコーヒーに口をつけながら、目の前の幼なじみに目を向け、あらためて、その整った容姿と、自分を前にしても遠慮することなく、美味しそうにスペシャルサンドにかぶりつく姿を愛おしく感じる。
ものの数分で、あっという間にサンドイッチをたいらげた
「あ〜美味しかった! 新鮮な野菜を食べられる機会は、なかなか無いからね〜」
と、感想を述べ、セットドリンクのホットティーに口をつける。
「
彼女のつぶやきに、何気なく問いかけると、
「も、もちろん、ちゃんと食べてるよ! だけど、こんなに美味しい野菜サンドを食べる機会はあんまり無いってだけ……」
と、取りつくろうように理由を述べた。
なるほど、彼女のお気に入りメニューだけあって、この店の野菜を使ったサンドイッチは、そんなに美味いのか……などと感心していると、
「あとは、やっぱり、好きなヒトと一緒にいるから、そう感じるのかな?」
はにかみながら、
その表情を視界に捉えると、思いもかけず、鼓動が早くなるのを感じ、まともに彼女の顔を見ることができなくなってしまう。
「な、なに言ってんだよ……」
なんとか、それだけ返答すると、幼なじみは、
「ちょっと、チョロ過ぎじゃない……?」
と、クスクスと笑い、
「イイ表情が見られたから、お腹いっぱい……」
と、口にして席を立つ。
閉店時間まで、こうして談笑するものだと思っていたオレは、コード決済で支払いを済ませた彼女を追うように、小銭でコーヒー代を支払って店を出る。
慌ただしく彼女に追いついたオレの方を振り返りながら、
「ねぇ、好きなヒトとハグをすると、幸せホルモンが分泌されて、不安な気持ちが解消されるって知ってる?」
突然の問いかけに、
「いや……初めて聞いた……」
緊張しながら答えると、彼女は両手を広げて、
「わたしの不安を和らげてくれる?」
と、小首をかしげながら、ふたたびたずねる。
この時間に、
自分自身の想いを再確認したオレは、意を決して、彼女の華奢な身体に腕を回し、ギュッと抱きしめる。
だが、コチラの身体にも、幼なじみの腕が回されるだろうと考えた瞬間――――――。
首筋にチクリと痛みを感じ、スッと意識が遠のくような感覚を覚えた。
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