第2章〜Everything Everyone All At Once〜⑫
ブルームが、木製の器具を口元にあて、思い切り息を吹き込むと、縦笛かオカリナを演奏したときのような甲高い音色が周囲に鳴り響く。
=========Time Out=========
その刹那、周囲の空気の流れが変わったのを感じた。
いや、正確に言うと、空気……いや、屋上に吹き付ける風が
さらに、声を上げる間もなく、バランスを崩し、屋上から身を投げるようにして、校庭に向かって全身を傾けている
周りの時間が停止している――――――?
直感でそう感じたことを認識するのとほぼ同時に、背後にいたブルームが、叫ぶように声を上げる。
「
上級生の姿をした捜査官の声に弾かれるように反応したオレは、今にも、校庭へと身を投げようとしているクラス委員の元に駆け寄り、彼女の身体を抱きかかえた。
その瞬間――――――。
=========Time Out End=========
両腕にグッと重みを感じる。
と、同時に海風が冷たく頬を撫でた。
そして、オレの背後にいたブルームは、虚空に漂う真っ暗な空間に、身体を溶け込ませるように消えていくキルシュブリーテに向かって、
ダンッ!
ダンッ!!
ダンッ!!!!
と、数発の弾丸を撃ち込んでいた。
乾いた銃声を残して放たれたそのうちの一発が、彼の身体を貫いたのか、彼は、一瞬、表情をゆがめたのだが……。
素早く駆け寄って、教師の姿をした過激派のメンバーを捉えようと腕を伸ばした捜査官の手をすり抜け、そのまま全身を黒い穴に投じて、不気味な空間もろとも消え去ってしまった。
何もない空間を掴むように手を伸ばしていたブルームは、
「クッ……逃したか……」
と、ほおを噛むように悔しがる。
そして、キルシュブリーテの姿が消えるのと、ほぼ同時に、
「あっ、
と、一言つぶやくように口にしたが、ふたたび、気を失ったように、彼女の全身からはチカラが抜けていった。
「キルシュブリーテは、どこかのセカイに消えたのか?」
「えぇ……こうなると、あらためて、彼らの足取りを追うのは困難になるわ」
そう返答するブルームの口調からは、口惜しいという感情が読み取れる。
それでも、真冬の寒風に身を晒しながら、直前まで起きていた危機から脱したことに安堵して息をつこうとすると、校舎との出入り口になっているドアが開く。
「三人とも無事で良かった……
苦笑しながら話しかけてくるのは、親友の姿をした、もう一人の捜査官だった。
「ゲルブ……あと、一歩のところだったんだけど……」
悔しさをにじませながら、同僚に屋上で起きた出来事の結果を告げるブルームを見ていると、自責の念にかられ、
「オレが、
という言葉が、自然と口をついて出た。
「いいえ……私たちは、『ラディカル』のメンバーが、貴方の周囲の人間に接触することを見越して、準備していたんだけど……なのに、こんなことになって、本当に申し訳ないわ」
ブルームは、そんな風に謝罪の言葉を口にするが、これまでの部活動で、そのカリスマ的な指導力に世話になりっぱなしだった
なにより、彼女は、
「いや、ブルーム、謝らないでくれ……アンタのおかげで、オレは、なんとか無事でいられたし、
上級生の姿をした捜査官に感謝を述べたあと、そうたずねると、彼女は、「えぇ……」と小さくうなずいた。
「
「そうか……それは、良かった……」
ブルームの言葉に、心の底から安堵した。
ふぅ〜っと、深呼吸をひとつすると、ゲルブがニコニコと笑いながら、
「まあ、実際、みんながケガも無く、無事に済んで良かったよ。カッコ良く女子生徒を救った一般人男子もいるみたいだしね! 銀河連邦から感謝状を発行してもらうために、記録を残しておこう」
と言って、スマホを操作し、
「おいおい……」
親友の姿をした銀河連邦捜査官に、抗議の声を上げながらも、オレは、たったいま起きた一連の出来事について、疑問に感じたことを質問することにした。
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