第47話 やれることはやり切ったかな

「お前たち、余計な詮索はなしだぜ! セリウスは俺の命の恩人だ! 今回のことも他言は禁止! いいな!」


 ポッツがそう言ってくれ、仲間たちもこれにすんなりと同意。

 お陰で余計な詮索をされずに済んだ。


「しかしせっかくここまで育てた薬草が、全部ダメになっちまったぜ」

「それに今後また、ギャングに目を付けられ、同じような目に遭う可能性も……」


 無事にポッツは戻ってきたものの、今回の一件で仲間たちはかなり意気消沈している様子だった。

 さすがのポッツも痛めつけられて精神的にかなりダメージを受けたのか、仲間を鼓舞することもできない。


「大丈夫。実は薬草栽培専用の魔道具をクラフトしてきたんだ。名付けて【薬草栽培キット】」


 僕は【アイテムボックス】から自動販売機サイズの【薬草栽培キット】を取り出した。


「今どこから出てきた!?」

「薬草栽培専用の魔道具だって?」

「こんな大きなものが……?」


 困惑するポッツたちを前に、僕は魔道具を起動し、実演してみせた。


「この魔道具には大きく四つの機能がついてるんだ。まずは栄養素たっぷりの土を生産する機能」


 どどどどどど、と勢いよく下部の口から土が吐き出されてくる。


「「「っ!?」」」

「続いて、清潔な水を作り出す機能」


 じゃああああ、と水が側面部のノズルから出てくる。


「「「~~っ!?」」」

「それから新鮮な空気を出す機能」


 ぶおおおお、と上部の口から空気が出る。


「「「~~~~っ!?」」」

「最後に、湿度や温度を一定に保つ機能」


 周囲の温度や湿度に合わせて、背面に空いた無数の穴から、熱を放出・吸収し、水蒸気を放出もしくは湿気を吸収してくれるのだ。


「たぶん細かい微調整が必要だろうけど、これがあれば薬草の大量生産もできるようになると思うよ」




    ◇ ◇ ◇




「……は? 街の大半のギャングが、謎の集団から襲撃を受けて壊滅させられた、だと?」


 ギルド長は秘書からの報告を受け、思わず手にしていたペンを落としてしまった。

 しかも詳しく聞いてみると、漆黒の全身鎧を身に着けた騎士のような集団だったという。


 当然つい先日のマザーリザードの一件を思い出さないはずがない。


「ま、間違いなく同じ連中だ……まさか、街の中にまで現れるなんて……っ!」


 執務室を出ていく秘書を見送ったギルド長は、頭を抱えながら呻く。

 と、そのときだった。


 突然、目の前に凶悪な気配を感じ取ったのは。

 ハッと顔を上げた彼が見たのは、


「く、く、黒い騎士いいいいいいいいっ!?」


 一体どこから現れたのか、彼の机のすぐ前に立っていたのだ。


「貴様ガ、ギルド長カ」

「ひっ」


 地の底から響いてくるような声だった。

 怯えるギルド長に、黒い騎士は続ける。


「貴様ハ、ギャングノ仲間カ?」

「ち、違うに決まっている! 冒険者ギルドは、ギャングとはまったく別の組織だ!」

「ソノ言葉、神ニ誓ッテ、言エルカ?」

「っ……」


 ギルド長は咄嗟に言い返すことができなかった。

 なにせ冒険者ギルドが、ギャングの存在を黙認していることは事実なのだ。


 ギルド長である彼自身も、裏で幾つかのギャングの幹部と個人的な付き合いがあり、その悪しき状況に加担していた。


 口を噤んだ彼の様子を見て取ると、黒い騎士が漆黒の剣を振り上げた。

 ギルド長は慌てて叫ぶ。


「か、完全に奴らとの関係を断ち切る……っ! 他の職員たちにも徹底させると約束する! だ、だから、命だけは……っ! 命だけは助けてくれっ!」


 この街における最大の組織のトップとは到底思えない情けない姿だったが、どうやらそれが功を奏したらしい。


「我ラハ、何時デモ貴様ヲ、殺セル。ユメユメ忘レルナ」

「は、はひぃっ!」


 そうして黒い騎士は忽然と姿を消す。

 完全に恐怖で射すくめられていたギルド長だったが、この至近距離で対面した結果、あることを確信した。


「あれは……生身の人間ではない……恐らくは、黒魔法によって作り出したもの……。だが一体だけであの魔力と威圧感……それを何体も同時に生み出せるなど……」


 少なくともこれまで彼が生きてきた中で、それほどの魔法使いを見たことは一度もなかった。


 絶対に喧嘩を売ってはならない相手だと理解した彼は、それから大ナタを振るい、組織の徹底した浄化に取り組むのだった。




    ◇ ◇ ◇




「セリウス! すべてお前さんのお陰だ! あの魔道具の力で、本当に薬草を大量栽培できるようになった! 協力してくれる元冒険者たちも増えて、最近は話を聞きつけた冒険者ギルドまで力を貸してくれるようになったぜ!」


 ポッツが興奮した様子で報告してくれる。

 どうやら僕がクラフトした魔道具によって、薬草栽培が軌道に乗ってきたようだ。


 ギャングの多くを潰しておいたことで、魔草栽培をしていた元冒険者たちが仕事を失い、セリウスの薬草栽培に合流したのも大きかったという。

 冒険者ギルドも貴重な薬草の買い取りをする中で詳しい事情を知り、全面的なバックアップを約束してくれたようだ。


「僕はちょっと協力しただけで、ポッツさんの努力が実を結んだんだよ」

「どう考えてもちょっとどころじゃないと思うぞ!」


 ともあれ、これで資金源の大幅減を余儀なくされ、いずれギャングの力も衰退していくだろう。


「この街でやれることはやり切ったかな」

「え? お前さん、もしかして」

「うん。そろそろ街を出ようかなって」

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