第45話 一つ一つ潰していくしかないね
ポッツはギャングに連れ去られてしまったかもしれないという。
「恐らく俺たちの仲間の一人が裏切ったんだ。それでここで薬草栽培に取り組んでいることがバレて……」
ギャングからすれば、自分たちの最大の資金源である魔薬製造を邪魔されては死活問題である。
それでポッツを排除しようとしたのだろう。
「どのギャングに連れていかれたか分かる?」
「いや、さすがにそこまでは……この街には大小、色んなギャングがあるから……」
「そう。じゃあ……」
「一つ一つ潰していくしかないね」
「……は? お、おい、まさか、ギャングに喧嘩を売るつもりか!? 君みたいな子供が何を言ってるんだ! 死ぬぞ!?」
「大丈夫。これでも冒険者だし」
「ぼ、冒険者だからって……」
「それより、どのギャングでもいいから、知ってる拠点はある? そこから順番に行くからさ」
ギャングに訊けば、他のギャングの拠点も分かるだろう。
そうして芋づる式に潰していけば、いずれポッツを攫ったギャングに行き着くはずだった。
◇ ◇ ◇
ギャング〝ビースト〟は、この街でも最大級の規模を誇っていた。
トップレベルの魔薬製造能力と資金力に加え、幹部が裏で冒険者ギルドの上層部と繋がっており、もはやその盤石と言っても過言ではない力を持つ。
以前、ファンが単身で全滅させたギャングとは比較にもならない。
そんなギャングの拠点に、漆黒の騎士たちが乗り込んできたのは、真昼間のことだった。
「おいおいおい、どうなってんだよ!?」
「なんだ、この化け物どもは!?」
「こ、攻撃が全然通じねぇ! ぎゃあああっ!?」
戦闘能力も高い構成員たちが、次々とその騎士たちが振るう剣の餌食となっていく。
地下まであるもはや要塞に等しいギャングの拠点が、瞬く間に制圧されていった。
「戦況はどうなっている!?」
「侵入者どもにまるで歯が立ちません! 奴らがここまで辿り着くのも、もう時間の問題かと……っ!」
「馬鹿な……ここはこの街の裏を牛耳るギャング、ビーストの本拠地だぞ……? それがこれほど簡単に制圧されるなど……」
拠点の最上階。
このギャングのトップに君臨するボス、アルバスは信じがたい思いで呻いた。
「最近この街のギャングを片っ端から潰しているという影の騎士どもの噂は聞いていたが……まさか、うちもその餌食になろうとは……。一体、何者なんだ? そういえば、沼地のマザーリザードの一件で、似たような話を耳にしたが……」
と、そのときである。
突然、彼の周囲を護っていた部下たちが一斉に倒れ込んだのは。
「なっ!?」
見ると、いつの間にか漆黒の全身鎧が彼のいるこの部屋に出現していた。
護衛たちはその剣で斬り捨てられたのだ。
「一体どこから入ってきた!?」
「「「……」」」
漆黒の騎士たちは答えない。
代わりに背後から子供のような声が聞こえてきた。
「ポッツさんをどこにやったか、教えてくれる?」
「っ!?」
振り返ったアルバスが見たのは、まだ十歳かそこらの少年だった。
「お、お前がこの騎士どもを操っているのか!?」
「質問に質問で返さないでよ。先に僕の質問に答えること。いい? これは命令だ。Eランク冒険者のポッツさんを誘拐したのは君のギャング?」
「……ひっ」
見た目は可愛らしい少年。
にもかかわらず、少年から放たれる殺気は、ギャングのボスとして幾多の修羅場を潜ってきたアルバスが圧倒させられるほど。
「(何なんだ、こいつは……? 見た目に騙されてはならん……間違いなく化け物……)」
アルバスは頬を引きつらせながら答えた。
「その名は聞いたことがない……っ! 儂らのギャングではないはずだ! そもそも何の目的があったか知らんが、一介の冒険者を誘拐するような三流の真似、伝統ある我がギャングがするはずもない!」
「そう。じゃあ、どこのギャングか分かる?」
「そ、そこまでは……い、いや、そうだ! 最近この街で勢力を伸ばしている〝ブラッドウォール〟という新興ギャングがある! 奴らは手段を選ばぬ、下等なギャングだ! 奴らならあり得るだろう!」
アルバスは判明しているそのギャングの拠点を少年に伝えた。
次の瞬間、少年目がけて鋭い氷の矢が飛んできたかと思うと、その身体をあっさり貫く。
「ボス! ご無事ですか!」
部下の一人が、魔法で少年を攻撃したのだ。
しかしアルバスはこの状況にかえって戦慄した。
なにせ少年は氷の矢で身体を貫かれたにもかかわらず、平然としていたのである。
かと思いきや、その身体がどろりと溶け、地面の影と化す。
「ぎゃあっ!?」
黒騎士の斬撃を喰らい、魔法使いの部下が悲鳴を上げる。
「無駄だよ。これは本体じゃないし」
「~~~~っ!」
アルバスの背後に、再び少年の姿。
「君さ、自分の組織に随分と誇りを持ってるようだけど、所詮はギャングでしょ? 君たちが非合法的に作って売ってる魔薬で、大勢の被害が出ているのは事実だよね? 三流とは違うだって? 見苦しい自己欺瞞、やめてもらえる?」
「っ……」
アルバスは何も言い返すことができなかった。
少年は満足したのか、踵を返して部屋から出ていく。
もし少年がその気になれば、自分などいつでも殺すことができるのだろう。
その後ろ姿を見送りながら、アルバスは決意した。
「ボスを……引退しよう……」
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