第44話 奴らの狙いは
「……間違いない。こいつはマザーリザードだ」
冒険者ギルドのギルド長は、沼地の奥にあったその死骸を一目見ただけですぐにそれがマザーリザードのものだと理解した。
若かりし頃、マザーリザードの討伐隊に参加した経験を持つ彼は、当時その目で実際に見たことがあったのだ。
あれだけ大量にリザードマンが湧いていた沼地に、ほとんどその姿を見かけなくなったとの報告を受け、自ら状況確認のために足を運んだのである。
「だがこのボロボロの身体は何だ……? 何かに攻撃を受けたって感じではない。まるで病気か何かで衰弱したかのようだ」
無論、攻撃を受けた痕も残っていた。
剣か何かで斬られたような傷跡があちこちにあり、謎の騎士集団の目撃情報と一致する。
「……やはり魔石が抜き取られてやがるな」
マザーリザードの腹部に大きくあけられた穴を確認し、気味悪そうに言うのは同行しているギエナだ。
彼女の仲間の女魔法使いが言う。
「他のリザードマンも同様のようです。鱗を剝ぎ取られているだけでなく、魔石も取り除かれています」
「そんなに魔石なんざ集めて、一体何に使うってんだよ?」
一般的に魔石の使い道はあまりない。
稀に変わり者の貴族が蒐集していたりはするが、見た目が不気味なこともあって観賞用には向かないし、売ろうとしても買い手がつかないのだ。
なのでわざわざ魔物の体内から抜き取る必要はない。
「魔道具の動力源として使われることもあるにはありますが、そもそも魔道具なんてものを作れるような魔法使いが少ないのです」
賢者と謳われた古の魔法使い中には、俄かには信じがたい性能を持つ魔道具を幾つも作り出した人物もいて、それらは伝説のアイテムとして現代にも残っていたりする。
ただ、分解したところでその複雑な構造や魔法陣が理解できず、再現するのが不可能だと言われているものばかりだった。
「魔道具? 魔道具か……そういえば最近、どこかでそんな話を聞いたような……」
「ギルド長? 何か思い当たる節でもあんのか?」
「いや……思い出せないってことは大したものではないのだろう」
ギルド長は首を振る。
……当人はちゃんと覚えていないようだが、実は少し前、彼は見習い冒険者たちに試験を受ける許可を出した。
その報告書に目を通したときに、まだほんの十歳の少年が、魔道具のクラフトを特技としていると記載されていたのである。
珍しいことだなと思いつつも、他の色んな仕事に忙殺され、すでに頭から抜けてしまったらしい。
「なんにしても、マザーリザードが討伐されたということは、Bランク冒険者の招集もキャンセルできるということ! 街にも被害が出なかったし、その謎の騎士団さまさまだな!」
「ちっ、よくそんな暢気なこと言ってられんな? そいつらが敵対的な存在かもしれねぇってのによ」
能天気なギルド長に、ギエナは呆れて息を吐くのだった。
◇ ◇ ◇
「よし、完成!」
できあがった魔道具は、今までクラフトしてきたものの中で最も大型になった。
前世の記憶にある自動販売機くらいのサイズ感である。
形状も自動販売機に近い。
下の方に大きな口が存在し、逆に上部には格子状の口が、そして側面にはノズルが付いていた。
名付けて【薬草栽培キット】。
黄魔法によって栄養素たっぷりの土を、青魔法で清潔な水を、緑魔法で新鮮な空気を作り出せる魔道具だ。
さらには温度や湿度を一定に保つ機能もついている。
つまり、これ一つで――といってもかなり大きいけど――薬草栽培に必要なものがすべて揃うという便利な代物なのだ。
もちろんこの動力源にはマザーリザードの魔石を利用した。
複数の機能を一つの魔石で賄うことができるほど、膨大な魔力を有した魔石である。
これでポッツの言っていた大規模な薬草栽培ができるようになるだろう。
もっとも、まだこれで薬草を育ててみたことはないので、実際にやりながら微調整を施す必要がある。
「えっと、この倉庫みたいな建物だったっけ」
以前ポッツに案内された栽培場所にやってきた。
「こんにちは、セリウスです。ポッツさんは……あれ?」
倉庫内に立ち入ったところで、すぐに違和感に気づいた。
なにせ薬草を栽培していたはずの大量の鉢が、どれも無残に破壊されていたのだ。
さらに人も倒れていた。
そのうちの一人のもとに慌てて駆け寄る。
「大丈夫!?」
「う……」
血だらけだが、まだ息がある。
僕は白魔法を発動した。
「サークルヒール」
第四階級の白魔法で、範囲内にいる仲間をまとめて治癒できる回復魔法だ。
倉庫内に倒れていたのは五人。
恐らくポッツと共にこの計画に尽力していた仲間たちだろう。
だがその中にポッツの姿はない。
「今の回復魔法は、まさか、君が……?」
「うん、それより何があったの? ポッツさんは?」
「そ、そうだ……っ! ギャングの奴らがっ……突然この場所に乗り込んできて……っ!」
気絶する前のことを思い出したのか、慌てた様子で叫んだ。
「ギャングが? それで、ポッツさんは?」
「分からない! だが、奴らの狙いは間違いなくポッツだ! もしかしたら、奴らに連れていかれた可能性も……」
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