第5話 あなたの方が子供ですよね
五歳になると家庭教師がつけられることになった。
しかも一人でなく、五人だ。
一般教養、宮廷作法、剣技、軍事、そして魔法と、分野ごとに教えてもらう形である。
五人というと多いように聞こえるかもしれないが、むしろかなり少ないらしい。
本当ならもっと細分化し、それぞれの専門家が指導してくれるそうで、第一王子には十五人、第二王子には二十人もの家庭教師がつけられているという。
どうやら家庭教師は母方の家が準備する決まりのようで、家格の低い僕の母方では五人が限界だったみたいである。
もちろん家庭教師としてのレベルも、兄たちには遠く及ばないだろう。
ともあれ、魔法の教師が来てくれるのはありがたい。
なにせ未だに第五階級の魔法に一度も成功していないのだ。
三歳の頃にはすでに訓練を始めていたのだけど……。
第四階級までとはやはり難易度が桁違いだ。
「魔法陣は確かに複雑だけど、上手く描けてはいるはず。なのに、何で発動しないんだろう? もしかして魔力量が足りていないとか……?」
第五階級を発動するのに、僕の魔力量が少な過ぎる可能性があった。
というか、現状ではそれ以外に考えられない。
生まれた直後から増量トレーニングを続けてきたというのになぁ。
「何かやり方を間違えたのか……。けど、僕がやってた増量法は、ちゃんと魔法書にも載ってたし……もしかして才能がないのかも……」
そんなふうに頭を悩ませていると、ついに魔法の家庭教師がやってきた。
「あなたの魔法の指導を任されたティラです。これからよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げながら自己紹介してくれたのは、十歳くらいの女の子だった。
「子供?」
もちろん五歳の僕の方が子供なのだが、思わずそう呟いてしまう。
正直なところ拍子抜けだった。
せっかく魔法書を読んでいるだけでは分からなかったことや疑問など、色々と聞いてみたいと思っていたのに、正直あまり期待できそうにない。
僕の言葉に、彼女――ティラは少しムッとしたように眉根を寄せて、
「……あなたの方が子供ですよね? それにこう見えてわたし、二十代ですから」
「え?」
驚いた。
こんな二十代がいるなんてあり得ない……いや、ファンタジー世界だからあり得るのかもしれない。
「先祖に長寿種のエルフがいるんです。寿命が人よりも長い分、大人の姿になるまで時間がかかるんですよ。でも、中身はちゃんと大人です」
きっぱりと断言するティラ。
よく見るとその耳の先端がほんの少しだけ尖っていた。
「そうなんだ。でも、魔法の腕はどうかな? うちの家、位が低くて、あんまりいい家庭教師を連れてこれないみたいだからさ」
「話には聞いていましたが……確かに五歳とは思えないほどませてますね……」
ティラは苦笑してから、
「御心配には及びません。これでもわたし、第五階級魔法使いですから」
「第五階級魔法使い……?」
「第五階級の魔法を使える、ということです」
「えっ、お姉ちゃん、第五階級が使えるの!?」
僕が目を輝かせて驚いたことに気をよくしたのか、ティラは少し自慢げに胸を張って、
「そうですよ。第五階級まで使えるのは、一流の魔法使いの証なのです。……って、あなた、魔法の階級を理解しているのですか?」
「やっぱり第五階級って難しいんだね。僕まだ、第四階級までしか使えないんだ」
「ふふっ、五歳で第四階級魔法が使えたら、将来は賢者になれますよ」
僕の発言が子供の冗談だと思ったのか、ティラは一笑する。
「いや、ほんとに使えるよ?」
「はいはい、それよりまずは魔法の基礎からしっかり勉強していきましょう。魔法の道は深く険しいですが、千里の道も一歩から。地道に頑張っていくことが肝要です」
「ほんとなんだけど……」
完全に信じてくれていない。
今まで周囲には僕が魔法を使えることは黙ってきた。
出る杭は打たれる……前世の教訓なのだけれど、あまり過度に目立つ真似はしない方がいいだろうとの考えが頭を過ったのである。
しかしこれから魔法を教えてもらう上で、こちらの現在地を伝えることは必須だろう。
図書室の魔法書をすべて読破したというのに、今から基礎を一から学んでいくなど、退屈で仕方がないし。
「第一階級から見せていくね。はい、ファイア」
「なっ……」
簡単な魔法陣と共に、空中で火が燃え盛った。
「続いて第二階級ね。ウォーターウォール」
「第二階級までっ?」
水の柱が発生する。
「第三階級は……室内じゃ危険だから庭に行くよ」
ティラを連れて王宮の中庭に出たところで、第三階級魔法を使う。
「クリエイトゴーレム」
「そんなっ……第三階級をいとも簡単にっ!?」
地面から巨大なゴーレムが姿を現す。
「しかも魔法陣の生成速度が凄まじい……これほどの技術、トップレベルの魔法使いとも遜色がないかも……」
「最後は第四階級ね」
第三階級までとは比較にもならないほど複雑な魔法陣が、虚空に出現する。
「この魔法陣はっ……まさか、第四階級緑魔法のサイクロン!?」
「信じてくれた? それともまだ信じてくれてない?」
ティラの返答を待ちつつ、膨大な魔力を注ぎ込んでいく。
血相を変えてティラが慌てて叫んだ。
「す、ストップストップストップっ! し、信じます! 信じますから魔力を止めてくださいっ! こんなところで使ったら大惨事になりますからあああああああああっ!」
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