第3話 元エースピッチャーの実力
球技大会が近づくにつれ、俺たちは空き時間を見つけては、キャッチボールなど、基本となる練習を開始した。
高校時代に、下位ではあるがピッチャーとしてドラフト指名がかかった竜牙さん、いったいどんな球を投げるのだろうか、興味津々であった。
少し長めの休み時間に、竜牙さんともっつんがキャッチボールを始めた。もっつんも運動神経が抜群なので、二人楽しそうにキャッチボールをしているのだが、それを眺めていた俺や、その場にいた数人のメンバーはあることに気づいた。
二人とも投げるボールの速さは、見た目にはあまり変わらないのだが、竜牙さんがニコニコしながら投げたボールは、俺たちの目の前を「うなりをあげて」通り過ぎていく。もっつんの投げた球ではうなりは聞こえない。
おそらくボールの回転数が違うのだろう。プロが目をつける逸材はやはり違うのだろう。
「竜牙さん、変化球は投げられますか?」
「たぶんできるよ。もっつん、投げても大丈夫?」
「大丈夫っす。お願いします!」
そこで竜牙さんは、カーブを投げた。俺たちの目の前をまた「シュン」と音を立ててボールが走り、もっつんが慌てて受け取る。
「竜牙さん、メチャメチャ曲がるじゃないですか!」
ともっつんが目を丸くしていた。横からぼんやり見ているとよくわからないが、もっつん曰く、ものすごく変化したらしい。
「竜牙さん、一度だけ本気でなげてもらえますか?」
「もっつん、そりゃ構わんけど、もっつんの後ろ、道を挟んで大学病院の患者さん用駐車場だから、絶対に外さないでね」
「大丈夫っす!」
と言って、もっつんは胸のあたりにグローブを構えた。ニコニコとしていた竜牙さんの表情が真剣な表情になる。ゆっくりしたモーションから、素早い球が放たれる。
「ビュン!」
と先ほどよりも強いうなりが聞こえると同時に
「パーン!」というグローブからの音が。
「痛ってーっ!さすが竜牙さんの本気ですね」
「もう僕も30を超えたし、高校を卒業してからろくに練習もしていないから、高校時代に比べるとずいぶん遅くなったよ」
「さすが、それくらいの人でないと、スカウトの目には引っかからないんでしょうね」
と会話をやり取りした。ジャイアンのようにがっしりした身体だが、温和でにこやかな竜牙さん、とんでもない実力の持ち主だった。プロで活躍している人、もっとすごいの?すごいよなー。
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