すべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れ

川線・山線

第1話 「なぁ、みんなでチームを作らないか?」

「なぁ、みんなでチームを作らないか?」


学部対抗球技大会の前に、「もっつん」が俺たちに声をかけた。


俺たちは、校舎から雄大な火山が見えるK大学医学部医学科の4年生。学祭も無事に終了し、臨床実習が始まる5年生になる前の、人生最後の「比較的優雅」な学生生活を謳歌していた。


我らがK大学では年に2回、同じ梅が台キャンパスにある医学部医学科、医学部保健学科、歯学部で行なう「球技大会」が開催されるのが伝統となっていた。


これまでの球技大会にも、友人たちが集まって、その場その場で適当にチーム名をつけて参加していた。友人たちの混成チームであり、運動系クラブに所属するスポーツマンから、俺のような「運動神経ポンコツ、年齢はおっさん」みたいなやつまでいるチームである。戦績は推して知るべし、というべきか。


「今まで、球技大会は『てきとー』に名前を付けてきたけど、きっちり名前を付けようぜ。ユニクロで白T(白いTシャツ)を買ってきて、スプレーでユニフォームもつくろうよ」


と、もっつんがさらに提案する。


休み時間に駄弁っていた俺たちだが、みんな口々に、


「いいねー」

「面白そうやん!」


と賛同した。


「メンバーはいつものみんなでいい?」

「もちろん!」

「じゃぁ、チーム名を考えようか?」


とみんなでいくつか案を出した。


まだあの頃は、在阪球団に「近鉄バッファローズ」があったころだった。誰かが言った。


「俺たち医学生だろ?だから医学的な何かをチーム名に入れようよ。そうだ!『貧血!』、チーム名は『貧血バッファローズ』はどうだろうか?」


「それ、めっちゃいいやん!!」


とメンバーの意見が一致! 晴れて俺たちのチーム名は『貧血バッファローズ』と決まった。


世の中、医師を目指している人は多い。しかし、医師になるためには医学部医学科に入学、卒業することが必須である。一時問題になったが、学科自体が、「現役、少浪生、男性」を有利に扱い、「多浪生、高年齢、女性」を入学試験で不利に扱う、という事があった。


ありがたいことに私の代は、そのような忖度がなかったのだろう。「多浪生」はあまり見かけなかったが、他の大学を卒業し、大学院生や社会人を経て医学科を受けなおした「再受験生」の割合は高かった。学年の15%が「再入学」であった。その中でも、年齢を重ねているメンバーは自分たちのことを「長老組」と称していた。俺も、「長老組」の一人だった。


球技大会のローカルルールとして、チームに28歳以上の人が3人いれば1点、30歳以上の人が2人いれば1点、女性が2人いれば1点が得点に加えられる、というものがあった。再入学の多い医学部、歯学部ならではのルールである。


『貧血バッファローズ』のメンバーは、総監督として、「長老組」にも属する「なるさん」、元高校球児で、プロ野球界から、ドラフトで選出されたものの辞退。学力優秀でQ大を卒業、その後社会人を経て再入学された、同じく「長老組」の「心優しき、見た目ジャイアン」の「竜牙さん」、「長老組」からは「普通の戦力」として、熱い心を持つ九州男児「くっしーさん」、奇想天外な「ネタ」をぶち込んでみんなを笑いの渦に巻き込む「師匠」、そしてポンコツの俺、こと「ほーじー」がいた。なるさんと竜牙さんは30歳越え、くっしーさん、師匠、俺は28歳以上30歳未満だった。


なるさんは、「総監督」という立場のはずだが、なるさんが指示を出すことはないに等しい。試合に勝った時にはみんなでなるさんを胴上げすることが恒例である。なるさんの一番の仕事は「胴上げをされる」ことだった。もちろんみんな医学生。胴上げから落としてしまうと大変深刻な外傷となることもあることを知っている。なので、なるさんを胴上げから落とすことは絶対にない。


「もっつん」と俺は、入学後からずっと、同じ実習班、実験班だった。医学部で最も長くてつらく、厳しい実習が「解剖実習」である。なので、卒業後も解剖実習班の連帯は続いていくことが多い。俺たちの班は、男性4人で構成されており、「鉄の結束」ならぬ「ケツの鉄則」(いや、そういう意味ではなく、単に文字を入れ替えて遊んだだけなのだが)、を公言し、班のモットーは「愚痴を言わずにギャグを言う。下ネタ大歓迎!」だった。


「解剖実習」、作業も細かく、覚えることは毎日山ほどで、本当につらい実習なのである。本当につらく厳しい時期を経験したことのある人は、俺たちのモットーの意味を分かってくれると思っている。


話は脱線した。そんなわけで俺たちの班からは強者ぞろいの「もっつん」、「タッシー」、「三ちゃん」と「俺」が、そしてそれぞれ仲の良かった友人たち、毒舌家の「なかっちゃん」、俺と同じくらいポンコツの運動神経を持つ「しんちゃん」、薫り高きコーヒーをこよなく愛する「兄やん」、爽やかなイケメン「りくろー君」、ザ・好青年の「きよ」、そして、きよの彼女で貧血のマスコットガール(いじられキャラ?)の「ねこさん」、仙人のように悟りきった印象を持つ「よっすぃー」、気は優しくて力持ち、柔道部猛者にして華麗なる一族のご令息「しょうた」、外観はいかにも地元民、という、西郷どんによく似た「ふみどう君」、1年間のアメリカ留学から帰ってきた、もともとは1学年上の「重さん」。


そしてチームに女性が2人以上いると1点加算、というルールがあるため、もっさんのクラブの同期である女性、「みやさん」にも加入してもらい、チームが動き始めた。



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