第11話 風に乗せる想い

春の兆しが感じられるある日、時ちゃんは店の片隅で、古びた手紙を見つけた。その手紙は、店を開業したばかりの頃に、地域の老人からもらったものだった。内容は、時ちゃんの料理への情熱と努力を讃え、長年の経験から得ためざしの秘伝の焼き方が記されていた。時ちゃんはその時のことを思い出し、ふと、あの老人に会いたくなった。しかし、老人は数年前に亡くなっており、直接の感謝の言葉を伝えることはもうできない。


その手紙を手にしながら、時ちゃんは、あの老人の教えが今の自分を形作っていること、そしてその想いをどうにか形にして次世代に伝えていきたいと考えた。そこで、彼女は「風に乗せる想い」と題した特別なイベントを開催することを決めた。


イベントの内容は、老人から受け継いだめざしの焼き方を公開し、参加者にも実際に試してもらうワークショップだった。そして、その場で学んだことを自分なりに表現してもらい、それを小さなメッセージとして風船に結びつけ、空に放つというもの。この活動を通じて、時ちゃんは、老人から受け継いだ想いを地域社会と共有し、さらに広げていくことを目指した。


イベント当日、店の前には参加を希望する人々で溢れかえった。時ちゃんは、手紙に書かれた秘伝の焼き方を丁寧に説明し、参加者一人ひとりが自分でめざしを焼く手伝いをした。多くの人々が初めての体験に興奮し、そしてその味に感動した。


ワークショップの後半で、参加者たちは学んだことや感じたことをメッセージに書き留め、それを風船に結びつけた。時ちゃんの合図とともに、数えきれないほどの風船が一斉に空へと放たれた。風に乗せた想いは、きっとどこか遠くへ届くだろう。


このイベントを通じて、時ちゃんは、料理を通した人々との繋がりが、自分にとって何よりも大切な宝物であることを再認識した。また、参加者たちは、一つの料理から多くの物語が生まれることを学び、地域社会の絆がより一層深まった。


「風に乗せる想い」は、その年から「時ちゃんの、めざし道!」の恒例イベントとなり、時ちゃんと地域社会の素晴らしい伝統として、長く語り継がれることになった。

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