時ちゃんの、めざし道!

みっちゃん87

第1話 隠れ家の扉を開けて

路地裏の曲がり角に、ひっそりと佇む一軒の食堂があります。看板もなく、扉も古びているが、そこは「時ちゃんの、めざし道!」と密かに人々に知られている場所です。店内は小さく、カウンターには8席だけ。壁には時ちゃんが選んだめざしの絵が飾られています。シンプルながら、どこか温かみを感じさせる空間です。


時ちゃんは23歳。無愛想で堅物な印象を持たれがちですが、めざしを焼くときの集中力と、時折見せる不器用な笑みが、この店の常連客を魅了して止みません。彼女が提供するのは、めざし定食一種類のみ。しかし、そのシンプルさがかえって、彼女の料理に対する深い情熱と、めざしという食材へのこだわりを際立たせます。


ある夕暮れ時、偶然この店を見つけた一人の客が扉を押し開けました。「ここは…?」と声をかけると、時ちゃんは黙々とめざしを焼き続けながら、「どうぞ、座ってください」とだけ答えます。客は不思議に思いつつも、カウンターに腰を下ろしました。


時ちゃんは焼き上がったばかりのめざしを、ご飯と味噌汁と共に提供します。その一口が、客の人生に新たな風を吹き込みました。シンプルながら、どこか懐かしさを感じさせる味。それは、時ちゃんが日々追求し続ける、「如何にめざしを美味しく食べるか」の答えでした。


食事を終えた客は、時ちゃんに感謝を述べますが、時ちゃんはただ静かに頷くだけ。しかし、その時、客は時ちゃんの目尻に微かな笑みを見つけました。それが、この店と時ちゃんの魅力の一端を垣間見た瞬間でした。


客は店を出るとき、「また来ます」と言い残しました。時ちゃんは何も言わず、ただ静かにうなずきました。夕暮れが深まる中、新たなリピーターが誕生したのです。


このようにして、「時ちゃんの、めざし道!」の物語は始まりました。シンプルながら心温まる料理を提供する小さな食堂と、無愛想で堅物ながら根は優しい時ちゃん。彼らの日常は、予期せぬ出会いと温かな笑いに満ちています。

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