第19話 罠

「さあ、どうぞ」


宗忠さんが、俺の前に紅茶の入ったカップを置く。


「砂糖はいるかな?」

「いらないです。いただきます」


カップに口をつけると、甘くて爽やかないい匂いがした。紅茶の中にはたまに、口の中に渋みが残る物があって、俺はどちらかというとコーヒーが好きなんだけど、この紅茶はとても美味しくて飲み易く、あっと言う間に飲み干してしまった。


「ふぅ…、ほんとに香りが良くて美味しい」


俺が感想を述べると、宗忠さんは嬉しそうにお代わりを注いでくれる。


「口に合って良かったよ。君のための特別な茶葉だからね」


ゆっくりと口の端をつり上げたその顔を見て、俺の中を冷たいものが走り抜けた。何かに気付いた清忠が、宗忠さんを問い詰める。


「兄さんっ、もしかしてっ。凛ちゃんには手出ししないって…っ」

「左近、右近」

「「はい」」


宗忠さんの声に、二人のスーツを着た男が入って来て、清忠を両脇から抑えつけた。


「は、離せっ!何すんだよっ。やめろ!」

「おまえは邪魔だ。端の部屋に閉じ込めておけ」

「「はい」」


二人が同時に頷き、暴れる清忠をがっちりと掴んで部屋から出て行こうとする。



「ちょ、ちょっと待ってっ。清をどうす…る…」


清忠に向かって手を伸ばした筈が、全く力が入らなくてぱたんとテーブルの上に落ちてしまった。

目の前の景色がぐるりと回って、今にも倒れそうになる。


「な、んで…、俺…」

「凛ちゃん!」


清忠の叫び声が扉の向こう側に消え、宗忠さんが俺の腕を掴むと、隣の和室へもの凄い力で放り投げた。



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