第18話 真葛 宗忠

清忠の兄さんは、玄関から進んだ突き当たりの部屋に入って行った。


「凛ちゃんの名前、兄さんに言ってたっけ?」

「あ、ごめん。先週、清が早く帰った日に、俺ん家の近くの駅でばったり会ったんだ。その時に少し話したよ」

「ふ~ん…」


面白くなさそうに返事をして、清忠が部屋に入っていく。俺は、なんかまずかったのかなと首を傾げながら後に付いて入った。

清忠の部屋は二間続きになっていた。入ってすぐの部屋は、フローリングの床に机とソファーとローテーブル、テレビまで置いてある。奥の部屋は和室で、寝室になっているようだった。


「清…いい部屋に住んでるね」

「そう?実家の方がもっと広いよ。凛ちゃん、そこに座ってて」


和室を覗いていた俺に、清忠がソファーに座るように勧めてきた。


「清って、もしかして実家で坊ちゃんなんて呼ばれてたりして…」


俺の言葉に、清忠は無言で目を逸らす。その姿に思わず吹き出してしまった。


「まじでっ?どんだけお金持ちの家なんだよっ。あははっ」


清忠に睨まれながら腹を抱えて笑っていると、扉をノックする音の後に、扉が開いて清忠の兄さんが入って来た。


「失礼するよ。今、使用人が出払っててこんな物しか出せないんだが…悪いね」


清忠の兄さんが、ソファーの前のローテーブルにポットとカップとソーサー、高価そうなクッキーが乗った皿を並べていく。


「兄さん、後は俺が…」

「そうだ。まだ名乗ってなかったね。俺は、真葛まくず宗忠むねただと言うんだ。よろしく、椹木…」

「あ、凛って言います。こちらこそよろしくお願いします」


俺と挨拶を交わす宗忠さんを、清忠が不安げに見ている。


「兄さん…もういいだろ。出てってくれよ」

「そんなこと言わなくてもいいじゃないか。俺はもう少し、椹木くんと話したい。いいかな?」

「あ、はい」

「ふっ、ありがとう。本当に君はいい子だ。椹木くんは、紅茶は大丈夫かな?この紅茶はとても香りが良くてね…」


宗忠さんはそう言って、ポットから紅茶をカップに注ぎ出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る