第2話 邪神大戦
あの日から13年と少しが経った。俺はイザヤとこの世界で生きる道を選び、今日まで様々な体験をしてきた。
この世界の現状は想像以上に厳しいものだ。1945年時点では25億人であった世界人口も現在2000年の段階で7億人程に減少したようだ。幾つもの国家が消滅し、現在残ったのは四ヶ国のみ。その国々もいつ崩壊してもおかしくない危機的状況だと聞く。
それもこれも全て"奴ら"がやったことだ。14年前俺を襲ったあの異形、人を食らう怪物『夜真人』がこの世界には蔓延している。
奴らは1940年代のある日、「魔王」と共に突然世界各地に侵攻し始めた。繁殖力は虫よりも高く、最も弱い個体でも戦闘能力は熊よりも上、そんな風に想像すると分かりやすい。唯一知能だけは人類より低く、基本的には本能に従い行動していると思われる。
奴らと人類の戦いはもう50年以上続いている。そんな中、イザヤと俺は自身の住処として孤島を選んだ。現在俺と彼女、それに何十人かの漂着者がそこで自給自足の生活を営んでいる。
もちろん島に奴らが攻めてくることもある。時に奴らは海から現れ、時に奴らは空から現れる。しかしこの14年間、島では一人の死者も出ていない。なぜなら迫りくる夜真人は全て討伐してきたからだ。
夜が深けた頃、今日も村の警鐘が打ち鳴らされる。奴らが攻めてきた合図だ。
「上空に邪神多数確認! FGC一体、FSI複数!」
空を
そして大量のFSIに囲まれている一匹の巨大な邪神、虫のような薄い翼と節々の胴を持ち、何百もの足をばたつかせているムカデと龍を混ぜたような怪物。おそらく全長15mはある。「フライ・F」「ジャイアント・G」「キメラ・C」あれはFGCに分類できる。
おそらくあの巨大な虫龍こそ今回の鬼門、相当の策と犠牲を要して初めて討伐できるような夜真人。さてこんな化け物を前に俺たちはどう生き残る?
残念ながら俺が直接できることは何もない。俺の現状は皆が想像しているのと全然違う。いまだに赤子の頃と何も変わってない。全身に骨がなく、ずっと車椅子生活だ。髪の毛もないし握力も弱い、それに自分で食事さえ取れない。
最悪だろ? でもこの村では一応リーダーなんだ。こんな体でも出来ることはいくらでもあるってこと。
「ノアさんどうしますか?」
村の人たちはいつも俺にこう問いかける。俺は喉に全身の力を込め、振り絞るように答える。
「とぅっ……せき」
情けないが、俺の声帯は未発達でまともに思ったことを喋れない。しかし彼らとはもう付き合いが長い。俺の途切れた言葉から彼らは意味を察してくれる。
「投石機ですか? 石で奴らを倒すんですか」
やはり全部を一回で伝えるのは無理みたいだ。
「かや……」
「火薬ですね? 分かりましたすぐ用意します!」
なんとか言いたいことが伝わったみたいで、皆は各々忙しく動きだした。
「ひっ……ひ、だ」
「おいお前ら! 火を起こせ」
「おおぎく」
「なるべく大きくだ! さぁ早く燃えるもの持ってこい!!」
「ばくばっ」
「爆発を利用しろ! 火薬だ、火薬で奴らを一網打尽にするぞ!!」
そうしている内にも羽音はどんどん大きくなっていく。とはいえまだ距離が遠すぎる。もっともっと近くに来てもらわないと。
怪物といえどもベースとなってる生物の生態は受け継いでいるものだ。例えばインセクトに分類される奴らは、夜になると火などの光源に寄り付くという虫特有の性質をしっかりもっている。
それを利用すれば勝てる可能性は十分にある。今まで俺は色々な本を読んだりして、あらゆる情報を蓄えてきた。そうして得た生物知識や兵法を上手く使って今まで奴らと戦ってきたのだ。「FGC・FSI」などの分類を考えたのも俺である。
だがあくまで俺は司令塔にすぎない。実際に戦場に行くのはいつだって村の男たちだ。だから彼らには凄く感謝してる。逆に俺も感謝される存在ではある。そうやって互いに支え合ってこの十五年を過ごしたんだ。
今回だって俺たちは首尾よく勝利を収めるさ。人間には知性と勇気がある。だから無垢な獣どもには絶対に負けない。
巨大なキャンプファイヤーが村の男たちにより作られていく。村中の明かりはすべて消され、闇の中にたった一柱の炎が立ち昇る。
戦士たちは配置につき、俺も後方に退散する。後は俺の世話係であるイグという村人に指示を出すのみ。
夜真人どもは穢らわしい羽音と共にキャンプファイヤーの方へと迫りくる。20、19、18mと毎秒ごとに距離は縮まっていく。
まだ早い、もっと近づいてくれなきゃ奴らを確実に殺せない。俺が指示を出すタイミングを誤ればここにいる全員が死ぬことになる。だが焦る必要はない。今日までの勘と自信、そして仲間を信じてただ期を待つ。司令官に必要なのはそんな忍耐力だ。
さぁもうすぐ。あと少し。もっと炎に近づいてこい間抜けな化け物ども。先頭の小型夜真人がその身を火の粉で焦がしたその時、俺はすかさず横の男、イグに指示を出す。俺の合図と共にイグは声を張り上げる。
「火薬投下!!!」
火柱の四方、50m程離れた所に設置された四機のカタパルトから火薬球が同時に
虫から虫、虫から虫へ火は移り本来よりもっと高い威力の爆発を引き起こす。
「
「たのんだぅっ」
イグは俺の車椅子を全力で押し進め、前線から急いで退避する。投擲指示から数秒後、大地を割るような爆音と共に熱風が迫りくる。
俺たちはとてつもない爆発の余波に巻き込まれながらもなんとか
イグは息を切らしながらも静かに笑っている。彼の横顔は鼻筋がスッと伸びていて、今日も調子が良さそうだ。
「やりましたねノア。邪神どもに一発食らわせてやった」
「あう」
「どうですか一本?」
そう言って彼は葉巻を取り出すと、小さなカッターで端を切り落とした。
「はう」
俺が吸いたいと返事するとイグは慣れた手つきで葉巻を咥えさせてくれた。
「終わった後のこれが一番いいんです。僕の生き甲斐だ」
爆音の後、一転して静かになった戦場に細い二本の煙が立ち昇る。何度吸ったって旨くなんか感じないが、彼に誘われるとつい乗ってしまう。
「きう……も、ありっが、とっ…………う」
「何を今さら」
「くくっ」
「あなたはね、僕にとっての
「そうか」
「さぁ皆の所に行きま……」
完全に緊張が緩んでいた。その隙に奴は迫っていた。俺たちが葉巻を吹かしている間も、ただ人間を殺すことだけを考えて、奴は突き進んでいた。
「化け物がっ! あの爆発でも死なないのか!?」
巨大夜真人「FGC」はまだ生きている。羽は燃え尽き飛行能力は失っているものの、その生命活動はまったく弱まっていない。何百もの体の節を巧みに操り陸を這ってこちらに近づいている。
「逃げましょうノア!」
「あうっ」
とにかく俺たちは逃げだした。さてここからどうするべきか? イザヤさえ動ければすべて解決することなんだが……
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