第2話:神々の領域
———ゴリゴリ—————ゴリゴリ———
「よう、アシュリー……? なぁ、何してるんだ?」
ゴリゴリ———ゴリゴリ——ゴリゴリ——
「あらレイド先輩。ごきげんよう」
「機嫌は良くねぇよ。さっき新人3人を看取ってきたからな……んじゃなくて、何してるんだって聞いてんだよ」
「何って……」
——ゴリゴリ———ゴリゴリ——ゴリゴリ
「……小麦粉作ってます」
「……その手作り感満載のすり鉢でか?」
「はい」
「〜〜〜ッ! はぁ〜〜〜……」
ゴリゴリゴリ、ゴ〜リゴリゴリ———
そう、俺は今藁束から小麦の種を脱穀し、小麦粉を作っていた。
広げた布の上で、尻の部分を持ってバンバン打ちつけると、粒が脱穀される。細かい部分は一つ一つ手作業で取り除く。
次に、健全じゃない種……黒穂病にかかってたり、虫に食われてたりしている種を取り除く。こういう類のは、水を張った樽に種を入れて棒でかき混ぜると、病気だったり食われて軽くなった種が水面に浮かんでくる。
それらを手で掬って捨てて……思いっきりかき混ぜる!
そうすると表面の殻みたいなやつが取れる。正直これで取れるとは思ってなかった。今回は成功したけど、チャートはチャーンと組み立てないとね! (激ウマ)
もう一度表面に浮いてきたゴミを取り除いて、中の水ごとざるに上げると……
「……ふおぉ!」
水を纏ってキラキラと光る小麦の種が!
そして、3日前に作っていたすり鉢でゴリゴリしていたところに先輩が来て今に至る。
「……いや、なんで小麦持ってるんだよ」
「この前、パンを作りたいので小麦粉を下さいと、溜まりに溜まった給料担いで行ったら……」
『軍人は小麦をそのまま食ってろッ!!』と、これを投げつけられた。
「小麦投げつけるやつも投げつけるやつだけど、それを使ってパンを作ろうとするやつもするやつだよ!!」
強烈なツッコミをいただきました。
「農民の軍人嫌いも程々にしてほしいっすよねぇ……」
「それは仕方ないと割り切れ。農民も自分と家族の生活がかかっている時に徴収されて気が立ってるんだ……んで? 今進捗はどんな感じなんだ?」
「パン酵母は作ってあるので……小麦粉を作ったらあとはこねて発酵させて焼くだけです」
「……ぱんこうぼ? はっこう?」
実はこの世界、食に対しての意識が低い。
パンは酵母菌なしのガジガジパンだし、スープに至っては味付けは塩のみ! 日本人舐めるなよ! 物心ついて3日で飽きたわ!!
無論、酵母菌なんて存在しないし、増してや発酵なんて未知の存在だ。
「センパァイ、もしうまく行ったら貴族でも食べられないようなパンが出来ますよ……?」
「まじぃ?」
「
「……俺も手伝って良いか?」
「良いっすけど……できるかわからないし、出来たとしても、2人で半分こだから、量は少ないっすよ?」
「うんにゃ、ちょっと興味あるだけだから。それ、貸してみ?」
すり鉢係をセンパァイに交代する。
「こう、か? 結構力いるな」
「すり鉢でやるもんじゃないっすからねぇ」
「頭おかしいだろ……」
2人でだべりながら交代交代でやること約2時間……
「っ! やっとか!」
「はい! やっとっす!」
かなり粒子を細かく出来た。
本当はここから
「ここに塩と水、パン酵母を入れてよくこねます」
テレテテテテ! パン酵母の作り方ぁ!
瓶の中に水を入れ、リンゴを皮ごとぶち込んで一週間放置するだけ!
注意をするならば、液体酵母は腐りやすく扱いが難しい。お家でやるんならドライイーストをお勧めする。
まぁ、この世界にはドライイーストなんてないから液体酵母を使うんだけどね。
「まとまりが良くなってきたら、人肌よりちょっと高いかなくらいに温めた、一週間かってようやく組み立てた窯に入れて、30分1次発酵させます」
「スゥ———(大きく息を吸い込む音)これ1人で組んだの? 一週間かけて? 暇人か? まだ待つの? ……そして発酵って?」
「センパァイ、私たちは今、神々の領域に手を染めているのですよ……」
「だから発酵って!?」
説明めんどい!
そして30分後……
「
おお! 膨らんでる!
「やっと食べれるのか!?」
「まだでぇーす。このまま常温で2次発酵」
「……おちょくってんのか?」
「ざぁーこ♡ざぁーこ♡ この程度の時間も待てないよわよわ精神♡」
「このッ……餓鬼ッ!!」
「冗談は置いて良いて、こうしないとふわふわにならないんですよ」
「へぇ」
「美味しい料理は待つことが肝心っすからねぇ」
さらに待つこと40分……
「ツンツン……良いっすね!」
2次発酵をやめる目安は生地が一回りほど膨らんできたタイミング。これには湿度や室内気温で発酵具合が上下するので、ここで得た知識をもとにつくろうとはしないでほしい。
「では、生地を切り分けて……」
この大きさなら4等分くらいだろうか。
「180度に予熱したオーブンで焼きます」
「おお! ……って! この火、炎の魔石じゃねぇか! この前の恩賞でもらったやつだろ? こんなところで使って良いのか?」
「どうせ魔力込めれば何度でも使えるし、使わないなんて勿体無いっすよ!」
それに、焚き火じゃ温度管理が難しいし。
「……そろそろっすかね」
扉を開くと……!
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