第2話 掌の上、彼らは踊る

 家に戻ると、私と全く同じ銀髪の母と私と同じ杜若色の瞳の父が出迎えてくれた。


「あの皇太子め、私が失墜させてやる!」


「まぁまぁ、父上……僕が潰します」


 宥めるように不穏なことを言うのは可愛らしい容姿と反対に生意気な3つ下の弟・テーシュ。


「私が皇女殿下にもお話しておきますわ」


 母・クロミネは国一番の賢妻だ。父・ネシュガの体調が優れぬときには彼に代わって指揮をとる。その能力を買われて皇女の教育係も務めている。


「あらぁ、大丈夫~?私はオルファをとっても心配したのよぅ~」


 のんびりと喋るのは二つ上の姉・エストフィ。穏やかで優しく、既にキャルベス公爵令息との婚約がまとまっている。


「お姉さま、心配には及びません。きちんとこちらから断罪して差し上げましたわ」


 ふふ、と鉄扇で口元を隠す。


「それにしてもよく姉上は皇太子相手に隠し通しましたね。貴女が裏社会最強のギルドの長だということを」


「国内でも相当の権力と財力を誇る我が組織のことが知られればあの"治癒魔法持ち"相手でも愛人置きになりますし。何しろ私の固有魔法は"魔力を生み出す"。簡単な強化魔法としていますが、この力が知れたら余計に婚約破棄には持ち込めなかった」


 固有魔法━━━━━━これはこの世界に存在する魔法の種類だ。一般魔法が誰でも使えるもの。その中に軽い傷の治癒も含まれる。


 固有魔法のなかでも治癒、加護は特に重視される。加護は術者の魔力に応じて与えられるものが変わるが、確か身体強化や固有魔法に準ずるものもある。


 今回のメイリーは凄まじい。身体の欠損も即座に治癒できる。重宝される魔法だ。一方、元婚約者の私は魔力だけは歴史上希に見る膨大さだが、どうでもいい魔法の強化しか出来ない。


 あちらが選ばれるのは必然だ。しかし本来の私の魔法は自分の魔力を作り出す、規格外の魔法。


 馬鹿な皇太子より、私を選んでくれる別の人がいい。そう思うのは当然だった。


 何より━━━━魔力さえあれば固有魔法ツールがなくとも魔法を扱える。固有魔法があるとより簡単に魔法を扱えるだけで、別に魔力操作ができれば特に問題はない。


 この事実を知るのは家族に私、あと師だけである。私の師はイリスール・ネイ・モフト。我が国シグラ皇国、ケテヘガル王国、メイスーン国の魔法大国3つの中で5本の指に入る魔術師。


 ちなみにその5人よりも私の方が魔力は多い。しかし技量は遠く及ばず、尊敬堪えない5人であり目標となる5人だ。


「もう少し待ったら私、魔術師になりますわ」


「貴女ならできるわ!」


 お姉さまが応援してくれるが、魔術師は先刻の5人と同格のものを指す。


「出来る限りの努力は致しますね」

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