悪逆令嬢ですか……あながち間違ってはいませんが、そんなに地味な真似は致しませんわ

彗驊

第1話 婚約破棄

「お前、オルファ・ヴィルヘルムと婚約破棄をしてメイリー・スコットを新たな婚約者とする!」


 18歳、学園の卒業パーティーにて。わたくし、オルファ・ヴィルヘルムは婚約破棄を告げられた。喜びたいところを抑えていると。


 周りのご令嬢、ご子息がざわざわしている。皇太子派の人たちはくすくす笑っているが、全体の3割にも満たない。


「理由をお聞きしても?」


「図々しい奴だな。だが、いいだろう。これではあまりにも憐れだ。お前は私とメイリーの仲の良さに嫉妬して彼女を虐めたそうじゃないか」


 罪状が書かれた紙を投げつけられる。可愛らしく彼に抱かれた女は全くそんな感じがしませんけれど。むしろ私を陥れる悪女では?


「皇帝陛下は承知されておりますか?」


「勿論だ。父上は応援すらしてくれている」


「署名もありますわね?」


「あぁ」


 私が動揺しているとでも思ったのだろうか、満足げに頷いている。馬鹿だろう、この男。


「私、オルファ・ヴィルヘルムは婚約破棄を受け入れます」


「やっと悪行を認めたか。牢に入れるのはメイリーが反対したんだ。彼女の優しさに感謝するんだな」


「恐れ入ります。ですが……このままでは父の面目まで潰してしまいます。少しだけ、お話しても宜しいでしょうか」


「俺も父君には世話になった。手短にしろ」


 ふ、と嗤う。何て浅慮な皇太子。私の話を聞いたら形勢逆転は必至よ?


「まず、こちらの映像をご覧くださいませ」


 メイリーの行動が全て映された映像に、私の行動を映した映像。罪状を皆さんに見せるようにし、矛盾点を指摘する。


「う、うるさい!どうせ、小細工でもしたのだろう!?」


「そうですわね、次はこちらの方からお聞きください」


 入ってきたのは、ガセッツ公爵家のソシアル・ガセッツ公爵令息。彼の父、公爵も同伴だ。


「私は当然、虐めていた時間にはその場にいないといけないでしょう?でも、水をかけたときにはこの方たちといたの」


「オルファ嬢が言うことは事実です」


 2人揃って頷くと、公爵が進み出る。


「失礼ながら殿下。仮に彼女がメイリー嬢に嫌がらせをしていたとして、その多くの発言は貴族として常識では?」


 自分より身分が高い相手に話しかけるなんてどういう神経をしているのか、とか食事中に喋ることはいけないこと、婚約者のいる異性に過剰なスキンシップを図らない、等は常識だ。


「彼女は平民として暮らしていたんだ。分からなくて当然だろう。それに水を浴びせた件と暴漢に襲わせようとした件は別だろう!」


 そう、メイリーは平民として暮らしていた。スコット子爵が立場の違いで拒否しようとするメイドに無理やり、手を出して孕ませた子供で後継者がいないことを理由に引き取られた。


「それこそ、冤罪にもほどがあるでしょう。依頼者はアルセリア侯爵令嬢と記載されていますわ。まさかとは思いますが、殿下は字の読み書きもお忘れですか?」


「私を愚弄する気か!?」


「滅相もございません。ただ、アルセリア侯爵令嬢がやったことを私に結びつけるのは少々強引が過ぎますわ。我が公爵家を敵に回すのはお勧め致しません」


 そこで言葉を区切ると、極上の微笑みを浮かべる。


「しかし、私は殿下の婚約者ではありませんわ。貴方から婚約破棄を告げたのに間違いだったとは言わないで下さいまし」


 私は三大公爵家で最も富を持つヴィルヘルムの娘。これだけ、とは思わないで欲しいわね。


 一旦ここまでに、パーティをあとにした。

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