第19話 山荘に舞い戻る

 運転席のシートをつかむ手に力が入った。

 あおいが左にハンドルを切る。


 ゆっくりゆっくりと車のフロントガラスにヘッドライトで照らされた景色が映し出され、直樹なおきの胸がとくとくと早鐘を打った。


 だが、全貌が露わになった瞬間、直樹は力なく項垂うなだれたのだった。


「なんだよ、これっ!」


 悲鳴にも近い健人けんとの声が車内に響いた。

 そう叫ぶ気持ちも分かる。通り抜けた先には、またも私道が続いていたからだ。

 葵は今にも泣き出しそうな顔をしている。


 荒れた道に車体が揺れ、その衝撃に誰もが「あ」と声を上げる中、亮平りょうへいだけは口を一文字に結び、状況把握に努めていた。


 車は速度を保ったまま坂道を下る。

 直樹と莉奈りなには分かっていた。あの先の角を曲がれば、山裾に古びた家屋とテント、そして、亮平のワンボックスカーが現れることを。


 何も知らぬ健人と亮平は前方を凝視し、目の前に現れた光景に言葉を失ったのだった。


 ◇ ◇ ◇


 山荘の前に到着すると、葵がブレーキを踏んだ。


「なんで停めるんだよ! 次は行けるかもしれないだろ!」


 アルコールによるものか、恐怖心によるものか分からないが、健人が理性を失い、声を荒げている。

 葵は慌ててアクセルを踏みなおした。


 そんなに大声出すなよ、と直樹は思ったが、火に油を注ぐ様な真似はしたくない。

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