第13話 山道を駆け下りる

 山荘までの上り坂を引き返すより、バス通りに出る方が早いと思ったのだ。

 だが、いくら進んでも、大通りに抜けることができない。

 山荘からバス通りまでわずか三百メートルの距離だというのに、狭い私道が続くばかりだった。


直樹なおき!」


 莉奈りなが不安げに叫んだ。


「とにかく走れ!」


 無我夢中で足を動かした。

 懐中電灯で辺りを照らす余裕もなく、月明かりだけを頼りに走った。

 もしかしたらどこかで道を外してしまったのかもしれない。

 そう自分に言い聞かせながら、この狭い道に沿って駆け下りた。


「はぁ、はぁ……」


 一度たりとも上ってはいない。

 ただひたすら下ったのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 だが、角を曲がって、先に広がる光景を見た瞬間、直樹は愕然とした。


「嘘、だろ……」


 歩を緩め、肩で息をしながら現実を受け止めようと努めるが、無意識にかぶりを振っている。

 額から汗がつぅと流れ落ちた。


 莉奈もまた足を止め、立ちすくんでいる。

 直樹と莉奈の前に現れたものは、舗装されたバス通りでもなければ、商店街や民家でもなかったのだ。



 あの古びた「呪いの山荘」だったのだ――。 

 


 ◇ ◇ ◇

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