こたつでアイスを食べる話
こたつでアイスを食べる。冬だからこそ、否、冬でなければできない贅沢である。
今日もまた、私はリビングのこたつでひとりその贅沢を堪能しようとしていた。
しかも今日用意したアイスは冬の定番、雪〇だいふく。それも冬限定のチョコ味。
これこそ、冬にしかできないぬくぬくとひんやりの融合。なんたる至福か。
凛さんが帰ってくる前にと、アイスの蓋を開けたちょうどその時。
「……」
「……あ」
たまたまタイミングよく帰ってきた凛さんと、ばっちり目が合った。
マズい、母親につまみ食いがバレた子供の感覚だ。汗なんかかいてないけど、背中では冷や汗がつうと伝っているような、そんな気分である。
リビングの扉の辺りに立つ凛さんと、下半身をこたつに喰われた私。謎の見つめ合いの末、先に口を開いたのは私だった。
「お、おかえりなさい……」
「……神奈ちゃん、あなたダイエットするって言ってなかった?」
言った。確かに昨日、凛さんの目の前で宣言した。最近、少し体型が気になるからと。
十中八九、年末年始に自堕落な生活を送っていたのと、最近あまり運動ができていなかったのが原因であるのだけど、正直な話、凛さんが細すぎるからというのも理由の一端ではある。この人細すぎるんだもの。
「言いました……けど、冬限定は今しか食べれないから……」
「ああ、それ限定のやつなの」
私の所業に咎めるような目を向けていた凛さんだったけれど、私の手元を見るなりすぐに隣へと座った。
スーツのままこたつなんか入ったらスーツが皺になっちゃいそうだけど、そんなこと凛さんはお構いなし。それどころか、私の雪〇だいふくにさりげなく興味津々な様子だ。
そういえばこの人、こう見えて普通に甘いもの好きなんだったなと思う。案外食べるくせに、なんでそんなに細いのよ……。
「一個くれたら見逃してあげるけど?」
「ヤです」
悪魔の囁きのような凛さんの言葉。私は速攻で拒否する。
他のアイスの一個か一口ならいざ知らず、雪〇だいふくの一個って、それはもう実質半分ではないか。いくら凛さんとはいえ、私のこのささやかな幸福をそう易々と渡すわけにはいかないのである。ていうか欲しいなら買ってくればいいのに。
「くれないのなら今日の神奈ちゃんの晩ご飯はお野菜だけね」
「あげるのでそれだけは勘弁してください」
我ながら陥落するのが早かった。
でも、ダイエット中とはいえそんなウサギか草食動物みたいな食事は御免被りたい。それに、今日の夕飯は凛さんが豆腐ハンバーグを作ってくれることになっている。ダイエットすると決めたくせに食い意地を張っているようで恥ずかしいが、せっかく私の為に作ってくれるのに食べられないのは嫌だ。
しぶしぶ、雪〇だいふくのトレーを凛さんの方へ追いやる。でも凛さんは、ん、と顔を近づけるだけだった。
まるで、「食べさせろ」とでも言うように。
……本気で言ってる?
「しませんよ!?自分で食べてください!」
「だめ?」
「この楊枝?ピック?の安定感のなさ知らないんですか!?絶対落としますもん!」
「……むぅ」
渋々と、凛さんはピックを手に取った。……本当に、この人は時々こういうことをやってくるから困る。
隣の私が呆れるやら照れるやらで内心あたふたしている内に、いつの間にか凛さんはアイスを食べ始めていた。
はむっとお餅に齧りつく、小さなお口。
その口からみょーんと伸びる、チョコ味のお餅。
むふっ、と笑う凛さん。
……可愛い。アイス食べてるだけなのに。
相変わらずいい食べっぷりだ。その上とっても綺麗に食べてくれるから、非常に餌付けし甲斐があるし見ていて気持ちいい。口の端についたチョコアイスを舐める仕草もひっくるめて全部、このままCMにできるんじゃないかと思う。
「ごちそうさまでした」
そんなことを考えているうちに、いつの間にか隣で凛さんは小さく手を合わせていた。
普段の彼女からは想像もつかないくらい、幸せそうな笑顔のままで。
笑顔一つ。たったそれだけで、半分取られたのも許せてしまう自分のなんと単純なことか。
我ながらちょろくて困る。
(また買ってこよう……)
今度は一つ取られてもいいアイスにしなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます