うちの同居人が可愛すぎる件について【連載版】
駒野沙月
同居人が帰ってきた話
「凛さんおかえりなさ…って、大丈夫ですか?」
玄関先から、消え入りそうな声で「ただいま」と聞こえてからはや数分。一緒に暮らしている彼女が中々姿を表さなかったものだから、心配になって玄関を見に行った。
そこにはスーツ姿の女性が一人、玄関と床の境目辺りでくたびれたように座り込んでしまっていた。おかえりなさい、と近くまで寄って行けば、「…つかれた」という微かな声が耳に届いた。元々声の大きな人ではないけれど、今日は相当疲れているようだ。
…無理もない。ここ数日は休み無しだったし、毎日毎日相当な激務だったようだから。
「お疲れさまです。ご飯できてますけど食べます?あ、それか先にお風呂にします?」
「…
「はい?」
微かな声で名前を呼ばれたものだから、私はその後に続く言葉を待った。
だけど、彼女はそれ以上は何も言わずに、屈んでいる私を見上げて「ん」と両手を伸ばしていた。
普段はその名の通り凛としていて、どちらかと言えばクールな印象のある凛さん。勤め先での彼女の姿はよく知らないが、相当仕事の出来る人であると噂に聞いている。
一方のプライベートも大体そんな感じ。クールでマイペースで、中々懐かない猫みたいな人。だが、そんな彼女でもどうやら極限まで疲労が溜まるとIQが一気に下がるようだ。今の彼女は、まるで小さな子供であるかのように何も言わずその腕を伸ばすだけ。
結局、彼女のその動作の意図を理解するのには数秒ほど時間を要した。
「え、あ、私!?」
これはまさか…俗に言う『ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?』ってやつではなかろうか?新婚家庭みたいでちょっといいかも…。じゃなくて。そんなことを言ったつもりは微塵もなかったのに。
あわや思考停止に陥りそうになっていた私の内心はいざ知らず。私を見上げた彼女はまた、「早くして」とでも言わんばかりに腕をこちらへ伸ばしていた。
「じゅーでん」
「…ああ、そういう」
充電。その言葉にどこか拍子抜けしたような感覚を覚えるけれど、普段のクールさが微塵も残らない位には疲れてるんだから、そりゃそうだと思い直す。
ご要望通り、私は今日一日頑張ったのであろう身体をぎゅーっと抱き締める。ついでにオプションがてら頭もぽんぽんと撫でておく。
「…えへ」
耳元で吐息多めのそんな声が聞こえたような気がしたけど、多分これは気の所為だ。あの凛さんがそんな声出す訳ないんだから。
…とりあえず、一個だけ言ってもよろしいでしょうか?
疲れ切ったうちの同居人、可愛すぎやしませんか。
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