第14話

天井までの高さは9mほどで、巨大な鍾乳石がいくつも天井から垂れ下がっている。


床にはでこぼことした穴がいくつもあり、穴には水が溜まっているようだが、その中に黒い岩石のような物体がいくつも沈んでいるのが確認できた。


「あれはヴァンキッシュの卵だね。やはり繁殖を開始していたか。全部破壊しないといけない……」


「危ない、キルシュ!」


俺はキルシュの体に覆いかぶさるように彼の体を掴み、地面に押し付ける。


その僅か数瞬の後、俺たちの頭上を紫色の不気味な液体が飛んでゆき、天井から垂れ下がっていた鍾乳石に命中した。


ジュッという音ともに鍾乳石の命中した部分から煙があがり、鼻をつんざくような異臭が立ち込める。


どうやら強力な酸を含む毒液のようだ。


「すいません、反応が遅くなりました。手荒なやり方になってしまい申し訳ありません」


俺たちに毒を吐きつけたモノが、洞窟の奥から姿を現した。


先ほど洞窟の入り口で仕留めた個体より、一回り以上も体の大きいヴァンキッシュが二体、俺たちの姿を前にして激しい敵対心を露わに吠え猛る。


「ジャァァァァァァァ!!」


どうやら俺が匂いを辿ってこの場所にたどり着いたように、ヴァンキッシュたちも俺たちの接近を匂いか音で感知していたらしい。


暗がりに身を潜め、俺たちが卵に気を取られている隙をついて毒液による奇襲を仕掛けてきたのだ。


やはり魔物は侮れない存在だ。


俺が先に立ち上がりキルシュを助け起こすと、彼はヴァンキッシュ二体を視野に入れながら、杖を構えた。


「いや、助かったよザイ。卵は連中にとって虎の子のようなもの。守るのに必死になるのも道理だよ。

これだけ開けた場所なら多少派手な魔術を使っても問題なさそうだね。今度はこちらから仕掛けるとしよう」


キルシュの杖の前に激しく燃え盛る炎が生みだされ、それは玉の形となってヴァンキッシュたちに襲い掛かる。


広範囲に炎をまき散らす火の玉を作り出す魔術“火球”だ。


魔術師の魔術の中で最も有名なものの一つであり、魔術師の代名詞と呼んでもいい派手な見た目と破壊力をもつ魔術である。


ヴァンキッシュのうちの一体の体に直撃したそれは、轟音と共に爆ぜ、激しい火炎を辺りにまき散らす。


隣にいたもう一体のヴァンキッシュも炎に巻き込まれ、二体とも強烈な火傷を負ったようだがまだ死んではいない。


体を焼く炎にもがき苦しみながらも、地面に体を転がし床の水たまりを利用して炎を消そうとする。


さすがに図体がでかいだけあって、かなりの耐久力があるようだ。


しかしこれだけの時間が稼げれば、俺がヴァンキッシュの側にたどり着くまで十分だった。


この洞窟の床が濡れてすべりやすく歩きにくい場所とはいえ、身体強化で全身の筋肉の動きを強化すればこの程度の悪路は俺にとって何の障害にもならない。


ようやく体の炎を消し終え態勢を立て直そうとしていたヴァンキッシュたちの体に、俺は剣を振り下ろし止めを刺した。


「……周囲に他のヴァンキッシュや魔物の存在は感知されません。これで掃討できたと思います」


二体のヴァンキッシュの死亡を確認した俺は、念のため感覚強化を用いて辺りを探ってみたが生物の気配や痕跡は感じられなかった。


「よし、これぐらいで十分でしょ。あとは卵も全て片付けておかないとね」


洞窟にいたヴァンキッシュ(死骸を調べたところ、やはり雌だった)を全て仕留めた事を確認して、キルシュは卵が生みつけられている穴すべてに“火球”を叩きこみ、卵を破壊した。


一つでも卵を残しておけば、それがやがて孵化して成体となり、周囲の自然環境を破壊する脅威になりかねないのだ。


この魔物は姿を確認したら巣穴まで追跡し、確実に排除する必要がある。


その間に俺はヴァンキッシュの解体を行っていた。


ヴァンキッシュは皮が防具や袋の素材、毒袋と呼ばれる体内で毒を生成する器官が一部の魔法薬の材料となるのだ。


しかし目玉と内臓にも有毒な成分が含まれているのだが、こちらは素材として使うことができないものなので、摘出してから火で焼き、灰にして毒性を失わせてから地面に埋める。


頭の部分も大半が素材として使用できないため切り落とし、皮のみ剥がす。


普通の刃であれば分厚い筋肉が邪魔をして皮を剥がしにくいが、アーティファクトであるこの剣であれば難なく切除することができる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る