UD

箱の中

 空には流星が降り注いでいる。


「人の身に余る力を人が神より賜りし寵愛を、なぜ人は自らの手で貶めるか? それは人のみが持ちうる心がゆえだ。人が人たる証がそこにあるからだ」

 男の前に少女の躰がゆっくりと降りてくる。


「人に祝福あれ。汝の罪は我が血肉によって贖われるだろう」

 男の足下から影が広がっていく。夜の闇のように暗く、月の無い夜空のように深い闇の色。


 それが、降りてきた少女の躰を吞み込んでいく。


 その闇に少女が呑まれる寸前――。


 銃声が響き渡り少女の身体が仰け反り、その額から血潮が迸る。

 額を打ち抜かれた少女が男の前に着地すると同時に振り返る。


 その視線の先には、銃を両手に構えた一人の少年がいた。


 少女は不思議そうに少年を見つめると同時に、傷口から血ではなく、黒い影が浸食していき、傷を修復するように額を黒く覆い、徐々に復元されていく。


 少年の持つ拳銃の銃口から硝煙が吐き出される中、少女と少年の視線が重なる。


 それは刹那の時間だったが永劫の時間のようにも感じられる不思議な沈黙だった。


 少年がそのまま銃口を逸らさずにいると、少女は薄い笑みを浮かべた後、ゆっくりと後方へと下がり始める。そしてそのまま闇の中へと溶け込むように消えていった。


 後に残ったのは、地面に横たわる一人の少年だった。


 その傍らに立った男がそっと少年の顔に手を触れると、その手が淡く光りだし少年を包み込む。


 少年はまだ何が起こったのか理解していないようで、周囲を見渡している。


 そんな少年に男は優しく話しかけた。

「やあ、目が覚めたかい。君が追っているアレは、倒すことができないものなんだ」


 少年は目を見開いて男を見つめる。

 男は優しく微笑んだ後、少年の頭をそっと撫でる。


 それから少し時間が経ち少年は自分の置かれた状況を理解し、少女を追いかけていった。


 「がんばれよ。俺もこの時間の軸の中でまだあの少女を追っているからな。またどこかで会うかもな、この箱の中で」


(完)

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